(215)中国の豚肉動向と天武天皇の詔【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年1月22日
日本とはまさに桁違いの量が動く中国ですが、豚肉も例外ではありません。豚肉はいわば主食も同然ですので確保は極めて重要です。2018年以降、アフリカ豚熱(ASF:African Swine Fever)の影響で激減していた中国の豚肉をめぐる状況について、少し俯瞰してみましょう。
2021年1月に公表された米国農務省の発表数字では中国の2021年の豚肉生産見通しは4350万トン、国内需要4780トンと、需要が生産を上回るが数字は落ち着いてきている。2017年から2018年にかけて5400万トン水準で推移していた豚肉生産量はASFの影響で2020年には3800万トンまで減少したが、ようやく回復してきたようだ。
生産ピーク時との最大差1600万トンを考えれば安心するには早すぎるが、それでも4350万トンには多少希望が持てる。前回10月から200万トンが増加しているからだ。
断定は難しいが2000万トン近くの不足に陥る事態は何とか避けられたようである。中国当局もその辺りは細心の注意を払い対応してきたのであろう。昨年12月には国際ニュースでも中国の豚肉価格が11年ぶりに値下がりしたことが流れており、とりあえず最悪の事態だけは避けられたようである。
これに伴い、中国の豚肉輸入数量も落ち着きを見せている。2020年の515万トンが今回は前回から120万トン上乗せされた462万トンにとどまっている。この程度で収まってくれれば国際市場への影響もかなり緩和されよう。
中国は母数が大きく120万トンが微増に感じるが、日本の豚肉輸入数量は年間142万トンである。2017年には年間754万トンの豚肉国際貿易市場の規模が2021年には年間1037万トンに拡大していることを考えれば、こちらも手放しで安心はできない。
今や総輸入の半分弱が中国であり、年間100万トン以上の輸入は中国と日本の2か国のみだからだ。世界の豚肉貿易の構図は興味深い。簡単に言えば、米国とEU、そしてカナダとブラジルが輸出し、中国、日本、メキシコ、韓国などが輸入している。少量の貿易は多くの国家間で行われているが、結局これらの国が大きな動きを決定する。
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さて、話は大きく変わるが、『日本初期』天武天皇四年四月庚寅の日(西暦では675年5月16日のようである)に、以下のような記述がある。
諸国に詔して曰く「今より以後、諸の漁猟者を制めて、...(中略)...牛・馬・犬・猿・鶏の宍を食らふこと...(中略)。以外は禁の例に在らず」(岩波文庫『日本書紀(五)』、124頁)
要は、諸国に対し、「今後、牛・馬・犬・猿・鶏の肉(宍)を食べることは禁止するが、それ以外は良い...」という事である。よく見ると対象には豚肉、つまり猪肉だけでなく鹿も含まれていない。つまり、当時の日本では少なくとも猪や鹿の肉はそれなりに食べられていたこと、そしてそれらまで禁止すれば、猟師や庶民も困るし朝廷も役人も困る...ということなのであろう。現実的な対応である。
一般に仏教伝来は538年に百済からとされている。天武天皇の詔より137年前になる。現代の感覚に置きなおせば、2021年から137年前は1884(明治17)年、時の明治政府にようやく内閣制度が発足し、初代内閣総理大臣伊藤博文が誕生する前の年である。
この当時の人達の感覚と現代人の感覚は大きく異なり日常の習慣も異なるであろう。そうした視点から天武天皇の詔を見ると、当時の日本では広く国内に普及した仏教により肉食が禁止されてはいても、実態は猪や鹿などの畜肉はそれなりに食されていたということになる。したがって、詔の内容は当時の現実を踏まえかなり注意深く理解しておく必要があるということになる。
ところで、これが現代中国における豚肉の生産と消費に示唆することは何だろうか。もしかすると、中国の豚肉生産の実態はこうした統計数字に表れるより遥かに奥が深いのかもしれない。直接現地を見ず米国農務省の公表数字だけで判断するのは非常に心もとないが、とりあえずはこのくらいにしておきたい。
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実は140-150年前に全く初めて導入されたことでも、我々は日本の長い伝統・習慣と誤解してしまうことが多くあるかもしれませんね。もっとも140-150年が長いか短いかもいろいろと視点により異なりますが...。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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