常軌を逸した生乳取引をめぐる規制改革の議論【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年4月1日
生乳取引に関する規制改革推進会議の議論は常識を逸している。生乳取引をめぐる規制改革そのものが大失敗だったのに、それを認めず、逆に理不尽な要求をしている。
まず、規制改革は見事に失敗したことが、新規に認定された業者の「集乳停止事件」で明白になったのに、そのことを認めず、反省もせずに、逆に、「原因は規制改革が足りないからだ」と主張している。規制改革そのものが失敗の原因なのに、処方箋は、もっと規制改革を徹底することだと主張するのは完全な論理破綻である。
こうした論理破綻は繰り返されている。2008年の食料危機やコロナ禍においても、貿易自由化を進めたために輸出規制が頻発して危機が増幅される構造ができてしまったのに、「価格高騰が起こるのは貿易自由化が足りないせいだ」というショック・ドクトリンが展開されている。原因は貿易自由化なのに解決策は貿易自由化だ、とは論理破綻も甚だしい。途上国の貧困緩和の名目で貿易自由化と規制緩和を要求して、その結果、貧困が増幅されると、「貧困が緩和しないのは規制緩和が足りないせいだ。もっと徹底した規制撤廃が必要だ」と主張するのも同様である。
次に、年間契約に基づいた取引で、「年度途中の出荷先の変更(契約違反)があっても、取引を拒否してはいけない。それがビジネスの常識だ。」というのはどういう理屈であろうか。どんなビジネスも契約に基づいて行われる。契約違反があれば取引は停止される。それをどうして農協だけは拒否してはいけないのだろうか。そのようなことを指示される筋合いはないと思われる。そもそも、「二股出荷」のことを議論しなくてはならなくなるような畜産法の改定が間違っていたということでもある。
「農協のシェアが大きいから分割しろ」という議論まで出たが、それなら、百歩譲って、その前に、座長さんの業界は、上位3社で71%(日本製鉄36.3%、JFEHD22.9%、神戸製鋼所11.5%)を占めるのだから、そちらを分割してもらうのが先ではないだろうか。
そもそも、農家の所得を時給換算すると平均で961円しかない。農協共販があっても農産物が買い叩かれているということだ。世界的には小売の支配力に対抗して農家収入を確保するために農協共販を強化すべきという議論が起こっているときに、日本だけが、逆に、農協共販弱体化を推進し、もっと買い叩けるようにしようとしている。
世界の常識である「農協共販の独占禁止法の適用除外」を日本だけが問題視し、それを否定するような畜安法や農協法の改定を行って、農協共販つぶしに躍起になっている。農家が不当に儲けているというならわかるが、後継者がいなくて困っている人が多いというのに、もっと買い叩くことしか考えられないとは、なんと情けないことだろうか。「今だけ、金だけ、自分だけ」から脱却しないと日本の将来は本当に危うい。
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