『福岡県農協中央会六十五年記念誌』を語る 高武孝充:元JA福岡中央会営農部長・九州大学博士(農学)【自著を語る】2021年5月12日
JA福岡中央会から『福岡県農協中央会六十五年記念誌』(以下『六十五年記念誌』)の執筆依頼を受けたのは2017年6月で、脱稿したのは、2018年12月であった。結果的に、第1巻『問い続けた協同』、第2巻『農業政策とその農政運動』、第3巻『協同組合は永遠なり』の編成で、総ページ数が1300ページという大部のものになった。そして、執筆が安倍政権のTPPに反対した農協を解体せんとする動きに重なったこともあって、この問題を無視した記念誌ではありえなかった。
各巻には、表紙を飾る「帯書き」を3名の先生にいただいた。
第1巻は、鈴木宣弘東京大学大学院農学生命科学研究科教授が、「共助・共生システムはどうあるべきか。その理論と実践の真骨頂がここに集約された渾身の一冊。高い理念と揺るがぬ信念をもって地域の食・農・暮らしを支え続ける福岡の協同の実践が未来を照らす道標になる」と評価してくれた。
第2巻は、磯田宏九州大学大学院農学研究院教授が、「わが国の米・水田農業政策と農業通商政策の展開を詳細に追跡し、それらの新自由主義的歪曲による生産調整と価格・所得支持政策の廃止やメガFTA強行がもつ矛盾を解明しつつ、福岡県系統農協が追求してきた希有な農政運動・政策提言活動の真価を記した、珠玉の巻」と私には嬉しい評価であった。
さらに、第3巻の「帯書き」は村田武九州大学名誉教授が、「規制改革会議とアベノミクスの『農業・農政改革』の本質を突き、政府(農水省)が提案する専門農協化に対する総合農協のあるべきオルタナティブとしての『福岡県域オールJA』を大胆に提起する」という的確な言葉をいただいた。
主に、第3巻を紹介したい。
安倍政権及び新自由主義者で構成される規制改革会議は、協同組合の源流や、今後に協同組合がどう期待されているか等を深く理解することなく、「農業改革に関する意見」を発表した。その本質は、「農協の解体」であった。その先に見えてくるのは、一般企業が農業や農協を初めとする農業団体の分野に進出し、取って代わろうとするものだ。安倍首相が「岩盤をドリルで穴を空ける」「60年ぶりに農協改革を実施した」(2018年度通常国会)と自慢げに、まさに憑(と)りつかれたように述べたことはそういうことだった。
ユネスコの世界文化遺産に「富岡製糸場と絹産業遺産群」が2014年に登録された。「絹産業遺産群」は上州南三社とよばれる農協由来の協同組織である。また2016年にはドイツが申請した「協同組合の理念」が世界文化遺産に登録された。さらに「持続可能な開発目標(SDGs)では、世界から協同組合が期待されている。これらについても第3巻でふれた。
第3巻で力を入れたのは、安倍政権の動きを批判的に分析することであった。「総合農協解体をめぐる激しく執拗な動き」「農協の准組合員問題」に力点を置きつつ、政府提案の准組合員の利用制限法制化に関しても海外の准組合員(準組合員・賛助会員)制度も紹介した。
第3巻の最後の二つの編では、福岡での協同組合の自己改革の方針、それを実現するための座談会という構成とした。その前提として、2012年3月に発効した「韓米FTA」下での韓国農協を「韓米FTA発効前後の韓国農協」として紹介した。TPP11関連法が成立し、安倍政権が日米FTA交渉への傾斜を強めつつあるなかで、韓米FTAの再交渉に向けて両国が動き始め、またたく間に妥結したなかでの、韓国農協の状況を伝えたかったのである。
農協法を根拠とした「福岡県農協中央会」という名称は残るものの、実質的な位置づけの引下げと機能削減を行った政府(=農水省の一部)の変節は許しがたい。しかし、考えようによってはアベノミクス農政をここまで追い詰めた国民的反TPP運動を誇るべきかもしれない。ただ悔しいのは、安倍政権は崩れたが、改悪された農協法は残り、起案した農水官僚は退官しても責任をとらないことである。
ドイツ・ケルンの協同組合の理事が述べたとされる「協同組合の存在意義」を紹介し、「六十五年記念誌」を締めくくった。
〇協同組合は故郷である。〇協同組合は密接な存在である。〇協同組合は安らげる場所である。〇協同組合は永続する。〇協同組合は世界中に拡がる。
なお、「在日米国商工会議所意見書」やその反批判など、重要な資料は附属資料として整理し残した。
相当に個性的な農協中央会史を元営農部長や教育センター長であった私が執筆することを許してくれた農協中央会前専務本村公則氏、前常務松下克弘氏(現専務)をはじめとするJA福岡中央会編集委員に心から感謝している。
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