(231)中国の穀物輸入「激増」と「健康な食事」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年5月14日
世界貿易の流れは時として大きく変わります。例えば、需要が激増しても、それに対応した供給が何とかなると、多くの市場参加者は気が付かないままに流れが変わります。中国の穀物輸入の流れと、最近の「健康な食事」の流れ、これを考えてみましょう。
中国は小麦生産量ではEUに次ぐ第2位だが、単一国家としては第1位(約1億3000万トン)である。コメも約1億5000万トン(精米ベース)を生産し、世界第1位である。
まさに「桁違い」だが、これらの品目の輸入数量は小麦・コメともに300~500万トンであり、これまでは世界貿易に与える影響も限られていた。ところが、一昨年頃から状況が大きく変化した。その傾向は2020/21年度の輸入数量に表れている。小麦は500万トンから1000万トンへ倍増し、粗粒穀物は1750万トンから4325万トンへと2.5倍に増加したのである。
米国農務省が5月12日に発表した最新の需給見通しでは、2021/22年度もこの傾向は継続している。簡単に言えば、中国の年間穀物輸入数量は過去5年間で約4000万トン増加したということだ。日本の年間穀物輸入数量は約3000万トンを考えると、中国に生じている変化がいかに大きいかが実感できる。
以前から中国の大豆輸入はその規模の大きさが知られていた。こちらは最新見通しでは300万トン増加して1億300万トンである。日本の年間輸入数量330万トン分が簡単に追加された訳だ。
一方、興味深いのはトウモロコシである。生産は米国に次ぐ世界第2位、ここ数年は年間2億6000~2億7000万トン程度で落ち着いている。ところが、需要面で見ると輸入が5年間で約2400万トン増加している。その結果が、2020/21年度の輸入数量2600万トン(前年の3.4倍)という訳だ。2021/22年度も同量見込みである。これは一時的なものではなく、かつての日本と同様、中国国内の需要構造が大きく変化しつつあると考えた方が良いであろう。
* *
ところで、2019年1月、世界の科学者30名が3年という時間をかけて、将来の地球が100億人の人口を養うためにはどのような食事を考えたら良いかということを検討し、その大きな方向性を提言の形でイギリスの医学誌である「ランセット」に公表した。
報道時はかなり注目されたため、記憶にある方も多いと思う。これをきっかけに世界中が持続可能かつ「健康な食事」とはどのようなものかということを国家レベルでもあらためて考え始めたと言ってもよい。
詳細は別の機会とするが、内容は赤肉や砂糖の消費を減らし、ナッツ類、果実、野菜などを増やす、それも前者は半分以上減らし、後者は倍以上に増やす...ということや、食品ロスの低減など5つの戦略が提示されている。もちろん、これは強制ではなく、各国や各地域により状況が異なるため、一律なものではない。そのあたりは流石に学術誌に掲載されているため、丁寧かつ慎重な表現が用いられている。
こうした流れの中で、EU・米国、そして日本でも持続可能性を念頭に置いた上で、「健康な食事」とはどのようなものかという検討が既に各所で始まっている。
さて、農業生産・農産物流通という面においては当面、日本は食品ロスの削減や、国内農産物の生産増加、それを実行するための各種の技術開発などがわかりやすい取組みになるであろう。SDGsを含めた大きな国際環境の変化に対応した形だからだ。
だが、もう1つの静かで大きな環境変化、つまり先に述べたような国際貿易の変化にはどう対応するか、これも日本には避けては通れない重要な課題である以上、いずれ取り組まざるを得なくなるであろう。
* * *
課題には、地域内自己完結が可能なものと、どうしても一定程度は他地域に依存せざるを得ないものがあり、これらが併存していることもあります。これは国内の自治体レベルから国際レベルまで同じです。相手があるだけに簡単に割り切る、あるいは即決できないところも同じではないでしょうか。
中国の穀物輸入数量の推移
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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