喜べぬ 実りの秋 島根県農協青年組織協議会会長 草野拓志【リレー談話室・JAの現場から】2021年9月25日
私は島根県の中山間地域で水稲を中心に営農をしています。収穫の秋を迎え、頭(こうべ)を垂れた稲穂が実り、田んぼが黄金色に輝く時期を迎えました。本来であれば心からうれしい収穫です。しかし農協から打ち出された概算価格は過去最低水準で、とても採算が取れる金額ではありませんでした。
冬からせっせと田んぼの準備をしてようやく収穫までこぎつけたのにガックリきました。米価は毎年のように下落し、営農を続けることが非常に難しくなってきました。MA(ミニマムアクセス)米を毎年のように70万㌧以上輸入しており、コロナによる業務用米が売れず米離れが進んでいる状況で米価が下落する理由はわかりますが、米作りの現場は窮地に立たされています。
国は米の減産を進めてきました。「米を作るのを減らして、売れるものを作るのが自助努力」と言ってきましたが、売れるものとは一体なんなのでしょうか? 今年度に至っては過去最大規模の転作を達成したのに米価の下げは止まらず先行きは暗いばかりです
米は日本の文化
水稲は元来、日本に非常に適した作物です。中国から紀元前300年ころに伝来したと言われますが、放射性炭素年代測定法などを用いた最新の研究では紀元前1000年ころには栽培していたということが分かっており、日本発祥の穀物と言っていいのではないでしょうか。「瑞穂(みずほ)の国」と呼ばれるように日本は米と切っても切れない文化、社会生活を歩んできました。草鞋(わらじ)や縄や筵(むしろ)といった生活用品から祭事のしめ縄や奉納、日本人はお米に尊崇(そんすう)と敬意を持ち大切に育ててきました。
日本は湧水地が多いのですが、水稲は安定して収穫でき、連作障害も出ない、また少ない人間で多くの耕地を作ることができ、雨の多い時期には田んぼはダムとなり、人々の生活を守ってきました。日本人にとってお米とは何か。伝統、文化、生活様式、その全てであり、日本人たる成り立ちと考えています。
現場を見て政策を
そうした中で米が余っているから転作を進め、飼料作物などに変えてしまうのが本当に正しいのか、という疑問が生まれます。もちろん輸入飼料はこれからますます減少していくだろうと言われているので、計画的な飼料確保は重要になってくるとは思います。しかし中山間地域や重粘土質や海抜ゼロ地帯、湿田など、畑作、転作に向いてない田んぼが多くあります。
そういった米しか作れない地域もあるということをきちんと認識しているのか、農業の政策を立てる人はちゃんと把握できているのか疑問に思います。農業者の思いとしては、お米を安心して生産したい、それは価格暴落などを気にせずに生産していける見通しです。国として「米の位置付け」は守らなければならないものであってほしいと心から思います。
これから総選挙、衆院選を迎えるにあたり、米の市場隔離や政府備蓄米の貯蔵年度の変更、また交付金などさまざまな出来秋対策が争点になってきます。食を支える農業という分野はとても大切であり、国土を守る、食を守ることは国防であり、資本主義の前に投げ出すことは絶対にあってはならないことです。補償はしないので自由に競走してください、だと販売力があるところ、生産性の高いとこだけが生き残る、それでは食料の安定供給からはかけ離れてしまいます。
農業の展望選挙で
国の農業に対するスタンス、自由主義的な考え方が今日の農業の形だと思います。どこが政権を取るか、誰が総理になるか、非常に重要になってきます。このような先行き不安な状況を打破し、米価が安定し、本当の意味での収穫が喜べる実りの秋がきてほしいと願うばかりです。
重要な記事
最新の記事
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ多様な農業経営体が大切なのか2024年3月28日
-
全国の総合JA535から507に 4月1日から 全中2024年3月28日
-
消える故郷-終りに、そしてはじめに-【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第284回2024年3月28日
-
岩手銀行、NTT東日本、JDSCが「岩手県の『食とエネルギーの総合産地化』プロジェクト」を共同宣言2024年3月28日
-
「日曹コテツフロアブル」登録変更 日本曹達2024年3月28日
-
適用拡大情報 殺虫剤「プレバソンフロアブル5」 FMC2024年3月28日
-
飼料用米を食料安保の要に 飼料用米振興協会が政策提言2024年3月28日
-
肥料袋の原料の一部をリサイクル樹脂へ置換え 片倉コープアグリ2024年3月28日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2024年3月28日
-
純烈が熱唱 新CM「おいしい雪印メグミルク牛乳 ゴクうまボトル」公開2024年3月28日
-
むすびえ「ウェルビーイングアワード 2024」活動・アクション部門グランプリを受賞2024年3月28日
-
「物流の2024年問題」全国の青果センターの中継拠点化で「共同輸配送」促進 ファーマインド2024年3月28日
-
ポストハーベスト事業 米国子会社を譲渡 住友化学2024年3月28日
-
農業の「経営技術」を習得 無料オンライン勉強会を隔月で開催 ココカラ2024年3月28日
-
森林由来クレジット販売プラットフォーム立上げ第一号案件を売買全森連×農林中金2024年3月28日
-
新規需要米に適した水稲新品種「あきいいな」育成 耐病性が優れ安定生産が可能に 農研機構2024年3月28日
-
食品ロス削減に貢献 コープ商品6品を3月から順次拡充 日本生協連2024年3月28日
-
最適な雑草防除をサポート「my防除」一般向け提供開始 バイエルクロップサイエンス2024年3月28日
-
国産和牛が当たる 「春の農協シリーズキャンペーン2024」4月1日から実施2024年3月28日
-
れんこん腐敗病の課題解決へ JA大津松茂と圃場検証を実施 AGRI SMILE2024年3月28日