求められる景気対策とその担い手【小松泰信・地方の眼力】2021年9月29日
コロナがまん延しようが、大雨が降ろうが、嵐のメンバーが結婚しようが、世に吹き荒れる嵐よりも「コップの中の嵐」がすべて。読書の秋なのに、読むのは「票」だけ。所詮彼ら彼女らは毒まんじゅう。食欲の秋といえども食すべからず。
「日本の景気」はお先真っ暗
日本世論調査会が行った「日本の景気」世論調査(全国の18歳以上の男女3000人を対象に、8月11日から9月16日にかけて実施。有効回答者1847人)の詳報を東京新聞(9月26日付)が伝えている。なお、小松の責任において、要約した選択肢がある。また、強調文字も小松による。
注目した回答結果は、次のように整理される。
(1)景気の現況については、「良くなっている」0%、「どちらかといえば良くなっている」8%、「どちらかといえば悪くなっている」58%、「悪くなっている」34%。
(2)(1)で「どちらかといえば悪くなっている」「悪くなっている」と回答した理由については(二つまで選択可)、最も多いのが「コロナ禍の収束が見通せないから」53%、これに「政府や自治体の経済政策の効果が出ていないから」43%、「雇用情勢が悪化しているから」と「給料、ボーナスなどの収入が減っているから」が21%で続いている。
(3)コロナ禍前と比べて家計の現状は、「良くなった」1%、「やや良くなった」2%、「変わらない」61%、「やや苦しくなった」25%、「苦しくなった」10%。
(4)自分や家族がコロナの感染拡大によって仕事を失うことへの不安は、「大いに感じている」11%、「ある程度感じている」33%、「あまり感じていない」39%、「まったく感じていない」13%、「すでに仕事を失った」2%。
(5)本格的に日本経済の景気が回復する時期については、最も多いのが「再来年(2023年)以降」58%、これに「元の状態には回復しない」20%、「来年(22年)」18%が続いている。
(6)コロナ禍対応の政府の景気対策は、「十分だ」6%、「十分でない」91%。
(7)コロナ禍における必要な景気対策は(2つまで選択可)、最も多いのが「減税」42%、これに「資金繰り支援などの中小企業対策の強化」40%、「雇用対策」37%、「特別定額給付金のような現金支給」33%が続いている。
求められているのは、生活者のための景気対策
前述の調査結果から、景気は悪化しており、本格的回復の兆しすら感じられない。コロナ禍対策と経済対策が功を奏していないことがその理由。家計において、コロナ禍前よりも好転しているとする人が3%しかいないことからも明らかである。また、失職経験者や失職の不安を抱えて生活している人が5割近くもいることには暗澹たる気持ちを禁じ得ない。9割を超える人が不十分とする景気対策。求められている「日本の景気」対策は、減税や現金支給による家計支援と雇用を保障すること。
守るべきは、人々の日々のくらし。決して企業を守ることではない。
米余りの中で飢える人々
「新型コロナウイルス下で細々と続く『共助』がピンチを迎えている」ではじまるのは、毎日新聞(9月24日付夕刊)。
東京・秋葉原で7月10、11の両日開かれた、女性を対象とした生活相談会場には、「農民運動全国連合会」(農民連)から4トントラックいっぱいの米や野菜、みそ、しょうゆも届いている。いずれも訪れた人たちに配るためのもの。
農民連の事務局次長藤原麻子氏は、「『困難のあるところに農民あり』です。私たちは災害などの現場に食料を届けてきました」と語り、忘れられないエピソードを紹介している。今年5月、東京都内で開かれた「ゴールデンウイーク大人食堂」で、米を受け取り「ありがとうございます」と涙ぐんだ女性の話。「派遣労働者として働いてきたが、コロナ禍で仕事が大幅に減り、仕事がない日は食事を取らずにずっと寝続けているという。繰り返し頭を下げる女性に、コロナ禍の厳しい現実を思い知らされた。と同時に、手塩にかけた農作物が誰かの命を支えているとの実感を持つことができた」とのこと。
しかし、前回の当コラムで取り上げた低米価が、農家の「共助」意欲を低下させようとしている。
トマトなど10キロ超の農産物を持参した農家の椎名知哉子氏は、「米で生計を立てているからこそトマトを出す余裕もある。米価が下がり続けると私たちも暮らしが成り立たない」「農作物で喜んでもらえるのは農家としてうれしいが、『公助』はどうした、と言いたくなる」と訴える。
「米余りの状況が生じているにもかかわらず、困窮して食べ物に困る人が続出している現状」に対して、農民連副会長笹渡義夫氏は「公的な食料支援制度」すなわち「公助」の重要性を指摘したうえで「政府は余剰米を買い入れて困窮者に配るなどの人道支援をすべきだ。そうすれば生産者は営農を続けられ、市民は飢えない」と提案している。
すり寄らない、媚びへつらわない女性議員はどこに
福井新聞(9月24日付)の論説は、「コロナ禍による女性の苦境が続いている。雇用面では『女性不況』と呼ばれ、サービス業を中心に女性の非正規労働者が特に深刻な打撃を受けている。自殺は増加し、ひとり親の貧困が顕在化した。女性に不利益が偏っているのは、男性優位社会の現実を政治が見過ごしていた結果ではないか。迫る衆院選でどんな女性政策を打ち出すか、自民党総裁選も含め各政党の取り組みを見極めたい」と、政治の責任を指摘する。
やはり女性候補者か、とはやる気持ちに待ったをかけるのは、東京工業大教授の中島岳志氏(東京新聞、9月28日付夕刊)。
当コラムがアップされる頃には判明するであろう「コップの中の嵐」の結末。その過程において、安倍晋三氏はかつてご寵愛の稲田朋美氏を遠ざけ、高市早苗氏を熱烈に支持した。
このことが何を意味し、何をもたらすかについて中島氏は、「安倍にとっては、自らの主張にすり寄る者をことさら引き立てることで、求心力の強化を狙っているのだろう。一方、リーダーとしての地位をうかがう女性政治家たちは、有力者への忖度(そんたく)によって、父権的な価値観へと傾斜し、女性の権利主張をトーンダウンさせていく。このような構造的な隘路を断ち切らない限り、いくら女性議員が活躍しても、自民党の父権主義は解消されないだろう」と語っている。
男性有力者にすり寄り、媚びへつらうことなく、当事者としての権利を主張し、政策実現に向けて誠実に努力する女性議員が多数誕生すれば、確実に「くらし」は改善する。その結果、「景気」も少しは好転に向かうはずである。
「地方の眼力」なめんなよ
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