国連食料サミットにおける米・欧・生産者団体の主張【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2021年10月1日
9月23日・24日と2日間にわたり国連食料システムサミットがオンラインで開催された。(※食料システム:食料の生産・加工・輸送・消費に関わる一連の行動)
本コラムでは、これまでに『食料システム』をめぐるEUと米国の対立(8月号)などを紹介してきたが、今回は、米国の話題を中心に、サミットに関連した主な動きを紹介したい。
WFO会長
食料システムサミット直前に米国が動きを見せる
サミットに先立ちイタリアで開催されたG20農業大臣会合に出席したビルサック米国農務長官は、EUのすすめるFarm to Fork戦略について「科学的根拠をもたない障壁を生み出す可能性がある」と主張し、米国主導で"食料安全保障と資源保護、持続的かつ生産性を向上させるための新たな連合"を設立し、サミットの場で、この連合を推進する意向を示した。
この米国が構想する"新たな連合"には、カナダやブラジルほか、南アメリカ諸国が関心を示しているという。
食料システムサミットで米国やEUはどのようなメッセージを伝えたか
サミットでは、参加各国が食料システムの課題解決・改革に向けた方策をメッセージとして発信した。
米国は、食料システムの変革をはかるための優先課題として、①すべての人々のための栄養および食料安全保障、②気候変動の緩和及び適応、③最も弱い立場の人々が求めている包括的かつ公平な食料システムの構築、の3つの分野を掲げた。そして、これらの課題に取り組むための投資計画や既に他国と共同で実施している取り組みなどをPRした。
続いて、事前にG20農業大臣会合のタイミングでビルサック農務長官が示していた通り、米国を中心とした"新たな連合"の立ち上げを全世界に向けてアナウンスした。
このように、EUへの対抗意識を隠そうとしない米国をよそに、欧州委員会(EC:EUの政策執行機関)の代表者は、「食料の調達方法を根本的に変革するため我々は"Farm to Fork戦略"を策定した」と述べ、続けて「持続可能な食料システムへの転換は世界規模で行う必要がある」とし、「我々はEUの食料システムをグローバルスタンダードにしようと取り組んでいる。各国にもこの取り組みに加わっていただきたい」と発言し、メッセージを結んだ。
EUが進める政策をグローバルスタンダードにしていく、というECの主張は、まさにこれまで米国が懸念してきた通りのものとなった。
既に他でも報じられているとおりであるが、日本はサミットにおいて①みどりの食料システム戦略を通じた生産性の向上と持続可能性の両立、②自由で公正な貿易の維持・強化、③各国・地域の気候風土、食文化をふまえたアプローチの重要性を主張した。特に日本の①、③の主張からは米国やEUの作り出そうとする潮流とは異なる、独自の戦略をしっかり進めていこうという決意がにじむように思われる。
生産者団体もメッセージを発信
サミットでは各国代表に加え、国際機関や市民団体等も参加しメッセージを発信した。
農業者の代表組織として出席した世界農業者機構(WFO:世界50カ国以上の農業団体が加盟。日本からは、全国農業会議所、全国農政連、JA全中が加盟)のテオ・ド・ヤーガー会長はメッセージの中で「今回、我々生産者はディナーに招かれたのではなく、我々自身がメニューを作れるよう、キッチンに呼ばれたのだ。土に指を入れ食料を生産する我々の声が、食料システムサミットの成果として、国家レベルや世界レベルで不可欠な要素となることを期待している」「食料システムの未来は、既に協力や対話など様々な方策で形作られているが、我々生産者が、誰も置き去りにしないためのこの創造的な取り組みの最前線に立つことを確信している」などと述べ、生産者が主体として取り組むことの重要性を訴えた。
米・欧がそれぞれ作り出そうとしているうねりはどうなるのか、そして生産者・生産者団体として取り組みをどう進めていくか、まさにこれからが重要な局面となる。
伊澤 岳 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントンD.C.>)
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