(253)「そんな昔のこと...」と「そんな先のこと...」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年10月15日
1942年に公開された米国の映画に「カサブランカ」があります。その中で、イングリッド・バーグマンの問いかけに対し、ハンフリー・ボガートが答えた有名なセリフが、「そんな昔のことは忘れたさ…」と「そんな先のことはわからない」ですね。
イングリッド・バーグマンが「昨夜はどこにいたの?」と聞いたのに対し、「そんな昔のことは忘れたさ...」と答え、「今夜は会える?」という問いに対し、「そんな先のことはわからない...」と、まあ、すこぶる勝手な答えを返す。現代の一般男性にはとても考えられないが、明日をも知れぬ第2次世界大戦中という時代背景、そしてハンフリー・ボガートだからこそ許されたのかもしれない。
さて、世の中では将来を見通す議論がさまざまな分野で行われている。10年先を見るのか、30年先なのか、それとも50年先や100年先が良いのか。これにはいろいろな視点と考え方があるため一概には言えないが、今回は500年くらいを考えてみたい。
とりあえず分かり易い例として、500年前の世の中では何が起こっていたか。
1521年、16世紀の前半である。日本は室町時代、年表をめくるとこの頃からいわゆる城下町のようなものが出来、山口や小田原あたりではかなり繁盛したようである。そしてこの時代の小田原といえば北条早雲だが、実はこの一代の英雄が亡くなったのが1519年と考えてみればイメージがわきやすいかもしれない。
世界ではどうか。北条早雲が亡くなった年から3年をかけて、ポルトガルの航海者フェルディナンド・マゼランは、スペインの艦隊を率いて有名な世界一周の航海に出る。
ちなみに、この時から約100年前、今から600年前の1421年は、ポルトガルのエンリケ航海王子がヨーロッパ中から船舶や地図、天文学などの学者を集めて航海技術の開発を始めている。その後の試行錯誤の上に、コロンブスによる西インド諸島到達(1492年)、ヴァスコ・ダ・ガマのインド到達(1498年)があり、マゼランによる世界一周(1522年)がある。100年以上をかけて積み上げた様々な経験と技術が、その後の大航海時代に生きてくる。
マゼラン自身はポルトガル人であり、正式にはFernao de Magalhaesという。カタカナ表記をすれば、フェルナォン・デ・マガリャンイスとでもなろうか。これがスペイン語ではFernando de Magallanesとなり英語ではFerdinand Magellanと綴られる。
良く知られているように、マゼランはスペインを出港し、大西洋をアフリカ東岸に沿って南下した後に、現在では「マゼラン海峡」として知られる南米南端の難所をひと月以上かけて通り抜けた後に、広くて大変穏やかな海に出たようだ。
そこでその海を「Mar Pacifico 」と名付けたという。それが後のPacific Ocean、つまり太平洋である。そして、ちょうど今から500年前の1521年、フィリピンのセブ島東岸沖にあるマクタン島で現地住民との争いに巻き込まれ、マゼラン本人は死亡したようだ。
セブ島は第2次大戦中旧日本軍の拠点が置かれていたが、現在の若い人の間では手頃な語学留学先として知られている。マクタン島はセブ市の沖合数キロにあり、マクタン・セブ国際空港がある。筆者は訪問したことがないが、マクタン島は「マゼラン終焉の地」として、そしてフィリピン人と西洋人の最初の戦いの地としても有名である。
戦いの背景は、現地の人々をキリスト教に改宗させ、当時のスペインに従わせようとしたマゼランと、それに対抗したムスリムの部族長ラプ=ラプの戦いである。フィリピンでは国民的英雄でもある。何となくマゼランのことは歴史の授業の中で習ってはいても、ラプ=ラプのことは多くの日本の学生は現地にいくまでは知らないのではないだろうか。日本からセブ島への語学留学生は是非ともこうしたことをしっかりと学んできてほしい。
さて、マゼラン亡き後、残った船員たちは現在のインドネシア、モルッカ諸島にたどり着く。そこで香料を入手し、1522年にスぺインに戻る。初の世界一周を成し遂げた栄誉だけでなく、モルッカ諸島の香料は大変高価であり、大冒険の報酬としても満足できるものであったようだ。その後の展開は、良く知られているとおりである。
我々はマゼラン海峡や太平洋という名称を普通に使用している。500年前の影響は現代でも依然として続いているということであろう。
* * *
早く、以前のように海外渡航が普通にできるようになってほしいものですね。様々な知識が積み重なるたびに、現地に行ってみたくなります。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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