10.31衆院選の総括を 野党再構築の道【森田実の政治評論】2021年11月3日
「政治家の秘訣は、何もない。ただただ『正心誠意』の四字ばかりだ」(勝海舟『氷川清話』)
勝海舟は右記の言葉につづいて、こう語っている。「今の政治家は...人心を収攬(しゅうらん)することのできないのはもちろん、いつも列国のために、恥辱を受けて、独立国の体面をさえ全うすることができないとは、いかにもはがゆいではないか」
「つまり彼らは、この政治家の秘訣を知らないからだ。もし知っていても行なわないのだから、やはり知らないのも同じことだ。何事でもすべて知行合一でなければいけないよ」
「正心誠意」という言葉は、中国古典の『中庸』の中にある。『中庸』は孔子の孫の子思が編纂したものである。子思は「中」を最高の価値に位置付け、「中」とは喜怒哀楽以前の状態だ、と記している。翻訳すれば、人間の感情である喜怒哀楽を超越した状況で世の中を判断するという意味である。私は、約50年間、政治評論の仕事をしてきたが、「中」の精神状況で政治現象を論じようと努力してきた。しかし反省ばかりしてきた。
いま89歳になって、ようやく「中」の状況とはどういうことか、がわかりかけてきたように感じている。
2021年10月31日の第49回衆院選を「中」の意識でみると、大マスコミの報道とは違ったものとならざるをえない。このことを、まずお断りしておきたい。
政権選択としての衆院選
マスコミは10.31衆院選を「自公連立」対「立憲・共産連合」の政権をめぐる闘争だと位置付けた。「自公連立政権」側も「立憲・共産連合」側もマスコミと同じ立場をとり、国民に「政権選択」を呼びかけた。
結果は、「自公連立」が勝利し、「立憲・共産連合」が敗北した。
マスコミは自民党の議席が15減ったことをもって「勝者ない衆院選」などと報道したが、たとえ15議席減っても、自民党単独で絶対多数をとったことは自民党の大勝利である。自民党の議席は約5%減ったがこれは微調整にすぎない。
これに対し、立憲民主党は110議席から96議席まで14減った。これは約12%減である。この敗戦は、立憲民主党にとっては存立にかかわるほど深刻なことであり、枝野代表の地位にかかわる重大問題である。パートナーの共産党は12から10に減った。立憲・共産両党とも敗北したのだ。立憲民主党が共産党と政治連合を結んだことは失敗に終わった。立憲、共産連合の野党戦略が根本的に誤っていたのだ。
この野党側の戦略の過ちが、自公連立の勝利の最大の原因である。
ところが、マスコミは「立憲・共産連合」を応援した。自民党の大敗北を予告し、政権交代の可能性があるかのようなおおげさな報道を繰り返した。これはマスコミの大錯誤であった。
立憲民主党の衆院選戦略の過ち
立憲民主党は衆院選の主戦略・戦術を共産党との協力においた。これによって、立憲民主党の運命共同体的パートナーの連合を分断した。立憲が連合左派だけを味方にしたために連合の中道派と右派は少数党の国民民主党と組まざるを得なくなったが、それを実行すれば連合は分断状態になる。左派の日教組、自治労、私鉄総連などの旧総評系と、金属労連、電機連合、ゼンセンなどの旧同盟系と旧中立労連系との間に深刻な亀裂ができた。
連合組織によって労働界が統一してから30年経つが、出発は労働界の完全な統一をめざして努力したが、できなかった。共産党系労組は連合に入らず、独自の共産党系の全労連を発足させた。これによって労働界の完全統一は挫折し、分裂は恒久化した。
枝野立憲民主党代表が、共産党との連合に踏み切ったことによって、自民党に代わるもう一つの政権党の基礎になることを基本方針にしている連合は、政治との距離をおくことになった。
これが、今回の立憲民主党敗北の最大の原因である。このことに立憲民主党指導部は気付くべきである。
立憲民主党は2009.8.30衆院選に学べ
2009年当時の民主党は連合と一体の関係にあった。連合とともに努力し全国の地域にまで根を張っていた。
たしかに、新自由主義の影響が広がるなか、労働連合の力は落ちたか、立憲民主党は国民民主党とともに労働組合の力を強め、格差社会を克服するために努力しなければならないのに、正反対のことをしているのだ。
立憲民主党は新体制のもと国民民主党との合同をはかり、連合との関係を修復し、2009年型の政権獲得を目指すべきであると思う。
自公連立に対して「立憲・共産連合」で戦いを挑んだ枝野戦略は完全に誤っていた。「自公連合」対「立憲・共産連合」の政権選択は、不毛の対決だった。この対決に嫌気がさした人々の受け皿になったのが「維新」である。「維新」は議席数を11から41へ伸ばし、第3党(野党第2党)に躍進した。今後政界において台風の目になるかもしれない存在となった。
今後の政治の焦点は2022年夏の参院選である。その前に野党勢力を建て直さなければならない。大切なのは「正心誠意」である。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日