(261)2つの「2022年問題」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年12月10日
「20XX年問題」というのは定期的に出てきますが、農業に関係する近い問題としては、2つの「2022年問題」ではないでしょうか。今週はその内容を見てみましょう。
最初の「2022年問題」は、一般に「生産緑地の2022年問題」と言われているものだ。町を歩くと「生産緑地」という表示をよく目にする。国土交通省によると、2020年12月末時点で三大都市圏の特定市にある生産緑地は約1万2千haのようだ。
三大都市圏とは東から東京、名古屋、大阪であり、各々が首都圏整備法、中部圏開発整備法、近畿圏整備法という法律により対象となる整備区域内の市町村が定められている。これが特定市である。これらの中にある生産緑地面積は、1990年代半ばには約1万5千ha存在したが、少しずつ減少し先の数字になっている。
1974年に定められた生産緑地法は1992年に改正が行われ、新しい生産緑地制度が開始された。簡単に言えば三大都市圏の農地を「生産緑地」と「市街化区域内にある農地」に分けたのである。当時、前者は約1万5千ha、後者は約3万ha存在した。その後、後者は2018年までに約1万haにまで減少したが、前者の「生産緑地」は何とか持ちこたえて現在に至る。
ところで、都市圏の開発には都市計画が関係する。1992年の改正法では、都市計画法の規定による告示日(申出基準日)から30年経過すると、生産緑地の所有者は市町村長に対し、当該生産緑地の時価買い取りを申し出ることが出来ると定められている。
現在残る生産緑地の多くは、この改正時に指定を受けたようだ。そのため、30年を経過した生産緑地が一斉に放出されると不動産市場に大きな影響を与える可能性がある...というのが、基本的な「生産緑地の2022年問題」である。実はここまでしか話をしないと門外漢は誤解することになる。
実際は、対応策として既に2017年には「特定生産緑地」という形で期限到来後も所有者が同意すれば10年延長が可能、さらに延長は1度だけではなく繰り返しが可能な形に制度が改善されている。
また、2017年改正では市町村の条例により生産緑地の指定最低面積を500㎡以上から300㎡以上に引き下げることや、生産緑地内に農産物などを原材料とする製造・加工施設や直売所、農家レストランなどの建設が可能になった。言い方を変えれば、農産物の生産と加工・消費が都市圏の農家レベルでようやくリンクしたのである。
2018年には「都市農地の賃借の円滑化に関する法律」が制定され、自ら農地を所有していない人でも都市圏において賃借で農業を営むことができるようになった。
選択肢が増えたことは良いことだが、実際にどうなるかは個々の農家の事情による。
その判断に影響を与えそうなのが、もう1つの「2022年問題」である。こちらは農業に限らず構造的なものだ。2022年以降、団塊の世代が後期高齢者となることで、健康保険を始めとする後期高齢者支援金の負担が急増することである。
団塊の世代とは1947~1949年に生まれた方々であり、人口ピラミッドを見ても突出している。後期高齢者は75歳以上、1947年生まれの方は2022年に75歳に達する...という訳だ。今後3年間はこの流れが継続し、その後もピラミッドは上方へシフトしていく。
もちろん、75歳に達しても健康な方々も多いから、これも全体としての影響と個々の影響とは分けて考える必要があることは言うまでもない。
参考までにいくつかの資料から数字を取り出せば、2021年9月時点で要介護認定を受けた全国675万人(第1号被保険者のみ)のうち、75歳以上は598万人と89%である。また、全国の75歳以上人口は1,886万人(2021年11月)であることから考えれば、現時点では、要介護認定を受けた後期高齢者は32%(598万人/1886万人)ということになる。そうなると、残り7割の健康な新規後期高齢者と、3割の中でも要支援と軽度な要介護度の方々のうち、農業にはどのくらいの人を導けるか、これも実は重要な仕組み作りが必要な仕事である。日本農業の新規就農者は若者だけで十分という訳ではない。
* *
今後の日本が直面する状況は世界でも例を見ない高齢社会です。我々にとってはさまざまな点で、新しい取り組みと対応が求められる現実問題であり、似たような人口構成を持つ各国には、将来「○○年問題」が登場する際に備えた先行事例になるのだと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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