先祖返りで政府備蓄米の価格を上げる作戦【熊野孝文・米マーケット情報】2022年1月4日
令和4年産第1回政府備蓄米買い入れ入札が1月25日に実施される。買い入れ枠は20万7000tでこれまでと変わらないが、事前の情報合戦は昨年以上にヒートアップしそうだ。それは、国の2年産特別枠対策等により市中取引の価格はやや持ち直したとは言え、依然安値に沈んだままであり、需給環境が改善したとは言い難く、このままでは4年産の価格が浮上するという見通しが立てられず、結果的に価格的に最も有利になるのが政府備蓄米であるということになりかねないからである。
過去の政府備蓄米落札結果(60kg/円、税別)は、平成26年1万1872円、27年1万0482円、28年1万1433円、29年1万2509円、30年1万3944円、令和元年1万4806円、2年1万3500円、3年1万1500円。2年、3年は推計で、特に3年産は産地優先枠での落札価格は大きな値開きがあった。
ちなみに米価が大きく下落した平成26年産の概算金は8654円で、政府備蓄米の落札価格が最もメリットがあったことになり、4年産についても同様の結果になりかねないため事前の情報合戦がヒートアップするのも当然とも言える。ただ、26年産と令和4年産では異なる点が何点かある。一つには国の助成措置で主食用米から転作について水田リノベーション事業で手厚い助成措置がなされること。
農水省が作成した4年産米の主食用米と非主食用米の10a当たりの所得比較によると、主食用米が11万2000円であるのに対して飼料用米は標準単収で11万1000円、多収米では14万1000円、加工用米10万6000円、新市場開拓米(輸出用米)11万8000円になっている。多収品種を用いて標準単収を上回れば主食用米を作るより10㌃当たり約3万円も所得が多くなるほか、輸出用米では新たに2万円の加算が得られることから主食用米を作るより所得が増えますよという比較表を示している。まさに助成金上乗せのオンパレードといったところだが、それだけ主食用米を減らさなければならないという需給環境で、その面積は青森県1県分をまるまる減らさないと需給が均衡しないという状況にあるということを示している。
産地側としてはどの用途に仕向ける方が最も有利な手取りになるかを選択することになるが、優先順位がこれまでと同様政府備蓄米になることは変わりない。その理由は第一に落札出来た場合、作付け前からその分の所得が確定できること。第二に共同計算の場合プール計算出来るので他の用途の価格設定がやりやすくなる。分かり易いのは政府備蓄米と加工用米に出荷した場合の生産者手取りを同じにしているところが多いのもそれが要因。ただし、4年産主食用米の価格が上昇するという予測が出て来ると話が違って来る。その意味では政府米の応札をどうするのかと言う産地側の判断の第一は主食用米の先行きの価格動向になるのだが、この見方がポジッションによってそれぞれ大きく異なる。
最も悲観的な見方は、倉庫が満杯になっている産地で、4年産政府備蓄米を応札しようにも2年産、3年産が倉庫に山積みになっており、今年9月までに出荷出来、どの程度の空きスペースが作れるのか分からない。3年産政府備蓄米の時もそうであったように落札出来たとしても自産地のコメを入れる倉庫を他県まで探しに行かなくてはならないという羽目に陥りかねない。
逆にこの状況をチェンスと捉える向きもある。その見方は3年産で大量の政府備蓄米を落札したの農協系統は倉庫の空きがなく、4年産は落札したくても出来ないはずだというもの。確かに政府備蓄米は何年も保管しておかなくてはならず、落札すればするほど保管スペースが限られてくる。そうした産地は備蓄米応札を諦めて最も早く処理できる用途を選択することも考えられるので、倉庫確保の目途があるところは応札することになる。
意外なのは少数派ではあるものの4年産主食用米の価格が値上がりすると見ているところもある。その根拠は、農水省の資料に赤字で掲載されている「関係者とともに、コメの需給実態を示す新たな価格等の情報の活用等を検討する」という一文。これが何を意味するのかと言うと現物市場に変わる新たな価格指標を作り、それを生産者概算金設定の基準にしたいという事なのだろう。
既にある相対価格の調査結果とは別に農水省がより詳細なコメの取引価格調査を実施してその結果を生産者概算金設定の根拠にするという事である。分かり易くいえば食管時代にあった政府買入価格策定の別バージョンを作るということ。これであれば米価が上がっても誰も文句は言わないだろうという目論見。コメ行政は見事に先祖返りする。
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