5キロ1000円のコシヒカリと4年産米減反計画【熊野孝文・米マーケット情報】2022年1月18日
朝の日課と言えば新聞を読むより先にチラシに目を通すこと。15日のチラシに某食品スーパーが「今週からガンガン行くぞ!」ど銘打って特売商品が掲載されており、目立つ箇所に精米商品として「千葉コシヒカリ1000円(税別)」と大書きされていた。精米商品の安売りは珍しくなくなったが、さすがに5kg1000円はインパクトがある。その千葉県では今、県議会で新年度の予算審議が行われており、この中で県独自に飼料用米に10a当たり5000円を加算することが盛り込まれている。
千葉県は4年産米の生産目安設定方針について「全国の適正生産量675万tに本県の需要実績シェア3.987%を乗じ、コロナ禍による需要減などを背景とした民間在庫の増加を考慮した25万1,207t(面積換算4万6,177ha)としたい」としている。県にどのくらい民間在庫が多いのか聞いてみると1万7,915t過剰だという答えが返って来た。千葉県は早期米産地であり、例年早期販売を掲げて販売促進に努めて来たはずで、さらには、3年産米は出回り初期から2年産に比べ大幅に安い価格でスタートしたにも関わらずこれだけの数量が過剰だというのは意外な感じを受ける。
農水省が公表しているマンスリーリポートの最新号から千葉県の民間在庫や価格動向をチェックしてみると、昨年11月末現在の民間在庫は9万5600tで前年同月に比べ2800t、率にして3%多い。全国ベースでの民間在庫は353万tで、前年同月に比べ8万t、率にして2.6%多いので、千葉県は全国平均並みの在庫を抱えていることになる。主要コメ産地の中には前年同月に比べ在庫が少ない産地もある。その筆頭は新潟県で約1割3万4200tも在庫が少ない。次に少ないのが福島県で2万7800t減、率にして12.5%も少ない。福島県は会津産が市中に出回らなくなっており、大手ユーザーが食指を伸ばすと直ぐに市中相場に反映する。産地銘柄別の指名買いが当たり前になっているためこうした現象が起きる。
価格面を見ると3年産千葉コシヒカリの出回りから11月までの玄米60kg当たりの相対価格は1万1,483円(税込み)で前年同期が1万3,554円だったので15%安く出回っていたことになる。POSデータの5kg当たり精米小売価格(税込み)を見ると出回り始めの昨年9月は1,831円であったが、10月は1,736円に、11月は1,667円にまで値下がり、前年同月比では322円も安い。前年同月比で値下がり額が大きい産地銘柄を見ると一番は福井のハナエチゼンで692円、2番は千葉コシヒカリになっている。全国平均が97円安なので、それよりも大幅に値下がりしていることになる。3年産米の小売価格は毎月のように下げ続けているので、今年1月の価格もこの価格より値下がりしているはずである。
こうした状況に最も危機感を抱いているのが地元の農協や集荷業者である。これまでは収穫時期の早さを武器に早めに売り切って新米に上手く繋げて来たが、3年産米の販売進度が滞ると4年産米の計画が立てられなくなってしまう。千葉県も他県と同様、今や最優先課題は目前に迫った政府備蓄米入札である。当然、応札価格をどうするのかと言う問題もあるが、それ以上に3年産米を早く倉庫から出してしまわないと落札しても搬入する倉庫が無いという事態に陥りかねない。3年産米の販売進度を上げて4年産米の保管スペースを確保できるようにすることが喫緊の課題になっている。例年であればこの時期には、大手卸から4年産契約も来て良さそうなものだが、今年はそうした話はほとんどないのだから政府備蓄米入札をどうすれば確実に落とせるのかに最大限神経を使わなくてはいけなくなっている。
千葉県が示した作物ごとの4年産作付予定面積を見ると政府備蓄米用の面積はわずかに738㌶であるのに対して飼料用米は1万㌶になっている。県では畑地化に向かないので飼料用米に回すしかないと言っているが、以前から千葉県産米には「主食用米の需要がある」と主張してきたのだから発想を変えて、飼料用米に10a5000円の加算金を付けるくらいなら主食用米に早期販売奨励金と言う名目で同じ額を助成金と支払ったらどうなのだろう。
千葉コシヒカリ5kg1000円のチラシを見たコメ業界団体の役員は「コメは需要拡大の環境が整った」と言う見方を示してくれた。これから「コメは安い」という認識が消費者の間に広がり、本当に需要拡大の転機になる可能性がある。安くても売れないというのは間違いで消費者が本当に安いと思う水準にならない限り消費は増えない。
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