-通商協定は誰のものか?-【近藤康男・TPPから見える風景】2022年1月27日
通商協定は国民のものであり、協定交渉も国民のものとして、透明性・説明責任が欠かせない。そのことは、2国間・多国間のFTAが進み、TPPに辿り着く流れの中で更に重要な課題となっている。
日本の発効済みのFTA,EPAは20件(TPP12含まず)、軸は多国間協定だ
日本では、2002年11月発効の雛型の萌芽とも言えるシンガポ-ルとのEPAから本年1月1日発効のRCEPまで、20件(TPP12含まず)の協定が発効している。この他に交渉中3件(対トルコ、コロンビア、日中韓)、交渉中断中(湾岸諸国、韓国、カナダ)が3件ある。
発効済み20件中ASEAN,CPTPP,EU(も含めれば)、RCEPの4件が多国間協定だ。そして一部の国で国内手続きが終わっていない例があるものの、チリ、タイ、スイス、インド、モンゴル、米国、英国の7カ国以外の国は、日本が参加している多国間協定に包摂されている。更に、日英EPAは日EU・EPAがベ-スであり、日米間も米国の本来の交渉目的(18年12月の公表・22項目の「対日対日交渉目的概要」)は、大半が"TPP12プラス"とも言える内容だった。
上述した多国間協定は、別の言い方をすれば、貿易からルール、更には社会の枠組みを規定する協定へと変化している。遅れて参加したTPPでは、既に貿易関連を中心とする章は30章中8章のみで、大半は15章政府調達、17章国有企業、25章規制の整合性、などに代表されるルール=公共や産業政策・労働・環境など、社会の枠組みについての規定が占めている。
日本の通商戦略の流れに見る変化
日本政府の通商政策は、WTO発足後暫くはWTOを中心としており、農産物の関税化に踏み切ると共に、01年に始まったドーハラウンド頓挫以降も政府調達・知財など有志国としてルール作りに加わってきた。今も"有志国方式"は続いており、5件の課題について60~100ヶ国が有志国に加わっている(21年12月3日付日経)。しかし、2国間・多国間のFTAが進む中で、まず外務省の文書において物品貿易と関税に焦点を当て、近隣の国々との通商協定を進める姿勢が打ち出された(02年「日本のFTA戦略」)。
更にアジア太平洋地域における21世紀型の貿易・投資ルール形成に向けて主導的に取り組むこととし(10年閣議決定「包括的経済連携に関する基本方針」)、加えて貿易面でのFTA比率で劣後しないため70%に引き上げることを目的にFTA交渉に積極的な姿勢に転換した(13年閣議決定「日本再興戦略」)。そして、遅れて参加したTPPでは、既に貿易関連を中心とする章は30章中8章のみで、大半はルール=社会の枠組みについての規定が占めるようになった。
企業の利害に直接的に関わる協定から、
社会的枠組み=くらし・地域・公共を広く規制する通商協定へ
WTOが国家が主導した貿易協定である一方、TPPはグローバル企業の要求を反映した社会の枠組み作りと言えるだろう。
TPP交渉に日本が参加した13年、上述した「日本再興戦略」では、"産業界のニーズ等を踏まえながら、TPP、RCEP、日中韓 FTA、日 EU・ EPA 等の経済連携交渉に同時に対処"、"経済連携の強化に向けた規制制度に関する取り組み:今後の経済連携交渉の進捗(しんちょく)等の動きも踏まえながら、規制改革に係る提案等への対応について、「規制改革会議」における審議を活用しつつ、検討を加速させる"と明記されている。なお、「規制改革会議」については、TPP12に付属する日米交換文書においてほぼ同文の内容が盛り込まれている、という根深い問題を引きづっていることを強調したい。
更に日米貿易協定と同時に日米デジタル貿易協定も締結された。デジタル協定は昨年から、急に米中も前のめりになってきている。しかし、この分野は巨大ネット企業の主導した既成事実を追認するものとなっている。20年1月のOECDの会合に提案した経産省報告でも、"デジタル企業が作る構造は変化も早く官が把握することは難しい"として、"民間が「ルールの設計者」となり、官が「監督者」"となる"共同規制"が適しているとしている(20年2月18日付け日経)。
貿易を中心に置いていた通商協定・通商交渉では、直接的な利害関係者は事業体だった。しかし、現在の通商協定・通商交渉はルールを中心としたものとなっている。ルール分野⇒社会的枠組みの規制はくらしや公共・地域(貿易分野に位置づけられていた農業はここにも含まれるべき分野だ)、つまり直接人々に係るものとなっている。「日本再興戦略」に記されているように"産業界のニーズ等を踏まえながら"ではなく、現在・今後の通商協定・通商交渉は、行政府任せでであってはならず、国民と地域、その付託を受けた立法府の声を反映させるべきであり、透明性・説明責任・国民参加と立法府重視が担保される=国民のもの、であるべきだろう。
重要な記事
最新の記事
-
静岡県菊川市でビオトープ「クミカ レフュジア菊川」の落成式開く 里山再生で希少動植物の"待避地"へ クミアイ化学工業2025年4月25日
-
25年産コシヒカリ 概算金で最低保証「2.2万円」 JA福井県2025年4月25日
-
(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
-
【'25新組合長に聞く】JA新ひたち野(茨城) 矢口博之氏(4/19就任) 「小美玉の恵み」ブランドに2025年4月25日
-
長野県産食材にこだわった焼肉店「和牛焼肉信州そだち」新規オープン JA全農2025年4月25日
-
宇城市の子どもたちへ地元農産物を贈呈 JA熊本うき園芸部会が学校給食に提供2025年4月25日
-
静岡の茶産業拡大へ 抹茶栽培農地における営農型太陽光発電所を共同開発 JA三井リース2025年4月25日
-
静岡・三島で町ぐるみの「きのこマルシェ」長谷川きのこ園で開催 JAふじ伊豆2025年4月25日
-
システム障害が暫定復旧 農林中金2025年4月25日
-
神奈川県のスタートアップAgnaviへ出資 AgVenture Lab2025年4月25日
-
「幻の卵屋さん」多賀城・高知の蔦屋書店に出店 日本たまごかけごはん研究所2025年4月25日
-
毎日新しいおトクが見つかる「Kuradashi公式アプリ」10万ダウンロードを突破 クラダシ2025年4月25日
-
夏を先取りジュース「そのまんまスイカ」果汁工房果琳などで25日から販売2025年4月25日
-
10事業所の使用電力 2025年までに実質再生可能エネルギー100%に切り替え キユーピー2025年4月25日
-
「ポリビニルアルコール」価格改定 5月16日納入分から値上げ デンカ2025年4月25日
-
老舗の目利きを活かしたジュースやスイーツ「キムラフルーツ 西宮店」リニューアルオープン2025年4月25日
-
中河原工場で使用の全電力を実質再生可能エネルギーに切り替え サラダクラブ2025年4月25日
-
代替肉 国内過去1年間で累計30トン販売 海外戦略も加速 ネクストミーツ2025年4月25日
-
新時代のロボット芝刈機「Automower NERAシリーズ」発売 ハスクバーナ・ゼノア2025年4月25日
-
持続可能な製品の国際的な認証制度「ISCC PLUS認証」取得 兼松ケミカル2025年4月25日