気候変動対策に関心高まる―米国農務省フォーラム【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2022年3月1日
2月24・25日の一両日にわたり、米国農務省が第98回となる農業アウトルックフォーラムをオンラインで開いた。このフォーラムは毎年開催されており、主要な農畜産品や農業経済、貿易、気候変動等各分野の専門家らがそれぞれの分野から米国農業の動向や展望を報告するものである。2年連続でのオンライン開催となったが、米国内外からの同時接続者数は1,600名を超えるなど、注目を集めたイベントととなった。
本稿では、フォーラムでのビルサック農務長官による基調講演の内容を中心に概要をお伝えしたい。
「米国農業の見通しは明るい」と基調講演を行うビルサック農務長官
基調講演でビルサック長官が語ったこと
基調講演に登壇したビルサック長官は、米国農業の見通しについて「コロナ感染症でのパンデミックによるサプライチェーンの問題が長引き、資材コストは高騰し、鳥インフルエンザが発生し、アフリカ豚熱の脅威にさらされている中ではあるが、米国農業は革新的であり、回復力を持っている。見通しは明るく、強く、前向きであると信じている」と冒頭で発言した。続いて、ドバイを訪問し、昨秋のCOP26時にアラブ首長国連邦と立ち上げた「農業分野の気候変動対策」に関する第1回閣僚会合を開催したこと、世界の国・企業・NPOにこの取り組みの賛同者が広がっていることを報告した。さらに、ビルサック長官は近年の市場で「気候変動に配慮した商品」という概念が明らかに重要になってきているとしつつ、しかし一方で、それがどういったものを指すのかまだ定義されていないとして、10億ドルを投じて新たな実証プロジェクトを始めたと説明した。この新たな実証プロジェクトとは2月7日に農務省が発表したプロジェクトのことで、農業者が実施する気候変動への取り組みに助成を行い、その取り組みによって削減された温室効果ガス排出量や炭素隔離量を定量化・検証するというものである。農業生産活動への支援に加え、生産物に「気候変動配慮型の農産物である」という付加価値がもたらされることで、新たな収入源につながると期待されている。
この他、輸出拡大の取り組みの重要性などへの言及があり、ビルサック長官の基調講演は終了した。
貿易に関しては具体的な言及はなされず
2日目には約30分にわたりタイ米国通商代表代表とビルサック長官の対談が行われた。この対談では、新たな貿易協定の追求やTPPへの復帰等といった具体的な会話はなされず、世界各地域との貿易関係に触れながら、インド太平洋、アフリカ諸国をはじめとした世界各国・地域とのパートナーシップ強化や、パンデミックや自然災害による影響等をふまえレジリエンス(回復力)やイノベーションの強化が必要といった総合的な会話がなされるにとどまった。政権交代前とはいえ、数年前のアウトルックフォーラムでは「農産物輸出拡大のために関税の撤廃や新たな貿易協定の締結が必要」などといったことが強調されていたことをふまえると、現在の政府の立ち位置がよくわかるといえる(それでも直近の米国農産物輸出額は過去最高を記録しており、農産物輸出拡大自体に後ろ向きなわけではないが)。
気候変動対応の重要性は高まり続ける
バイデン政権発足以降、農政分野ではほぼ一貫してパンデミックがもたらしたサプライチェーンへの影響からの回復や、気候変動対策といった課題に重心が置かれ続けている。これらの課題は世界的にも重要な課題であり、どちらも解決に時間を要すると思われ、今後も様々な施策が講じられる可能性がある。
特に気候変動に対する取り組みへの支援策やこれにより生産された農産物の付加価値化などの取り組みにはわが国でも取り入れられる点が多いかもしれない。そういった観点で、農業大国である米国の取り組みやその成果にも目を向けていく重要性は大きい。
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