(281)「あきらめ休廃業」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年5月13日
少し前になりますが通勤途上にあるコンビニの1つが廃業しました。いつ行ってもお客さんが多く、繁盛していた店舗でしたが、いろいろと考えるところがあったようです。
勤め人として給料を得る身はいかなる職業でも基本的に人に使われる立場である。戦後、間もなくの頃はゼロからスタートした文字通りの「創業経営者」が数多く存在し、中には設立した会社を後の日本を代表する大企業に育てた偉大な経営者も多い。
農業分野でもいわゆる「農地改革」により、数多くの自作農、つまり農業経営者が誕生した。その後、今日に至るまでの経過は、多くの研究者により膨大な記録や分析がなされている。
さて、連休の合間に全国の中小企業の動向を見ていて興味深い資料に遭遇した。株式会社帝国データバンクの「全国企業『休廃業・解散』動向調査」のまとめ(注1参照)である。過去2年間、コロナ危機により全国の中小企業は多大なる影響を受けたが、同時に政府当局や一般金融機関によるさまざまな支援活動が実施されている。
数字上、2022年1~3月の「休廃業・解散件数」は1万3251件と昨年、一昨年の同時期に比べれば落ち着いているように見える。だが、問題の本質はそこではない。
筆者は大学で「食品企業経営論」(2年生)といういわば経営学概論に相当する科目を担当しているが、その中で20歳前の学生達に話すと驚かれる内容が2つある。
1つは学生の多くが「黒字倒産」に馴染みがないことだ。これは無理もない。原材料を仕入れ、一定の加工やサービスを付加して販売し、そこからなにがしかの利益を得ることができればビジネスは成立する。そして大半の意識と関心は利益に集中する。
しかし、販売代金回収より先に原材料代金の支払いが来れば、一時的には自己資金などで相当額を手当しなければならない。いわば自己資金を切り崩し、次の入金を待つことになる。蓄えが無ければ倒産である。
一人暮らしの大学生の生活に例えれば、アルバイト代や親からの仕送りが入るまで何とかもたせれば一息つける...という資金感覚はわかっていても、それを企業活動やビジネスの現実と結び付けることはなかなか難しいようだ。ここからいわゆるキャッシュ・フロー、あるいは日銭管理や運転資金の重要性がわかれば次のステップに進むことになる。
もう1つは、同じ「黒字倒産」でも資金繰りの不手際以外の要因が近年の日本では急増していることだ。先の帝国データバンクによれば、「休廃業・解散における資産超過・黒字の割合」は63.3%という。経営面では黒字でもあえて「休廃業・解散」を選択する中小企業経営者が6割以上ということは何を物語っているか。
短期的かつ直接的な要因は、先に述べた様々な金融支援の返済である。「借金の返済が本格的に始まる」にあたり、今後の展望を考慮し、返済継続を頑張るより、この際、負債を一気に整理し「廃業」してしまおうという判断である。
もう少し広く見れば高度成長期に創業した数多くの中小企業経営者が、後期高齢者に相当する年齢に達し、事業自体は黒字でも適切な後継者が見つからず「休廃業・解散」という選択をした可能性である。これまでは「あきらめ休廃業」と呼ばれていたが、それがついに「ギブアップ廃業」という表現に変化したことがその状況を示唆している。
* *
今後数年の間に農業分野も商工業分野同様、「あきらめ」「ギブアップ」が数多く出る可能性があります。次の世代にどうつなげるか、いよいよ正念場です。
(注1) 株式会社帝国データバンク「特別企画:2022年1-3月 全国企業『休廃業・解散』動向調査」、アドレスは、https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220409.pdf (2022年5月12日確認)
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