安定供給がままならない飼料用米政策【熊野孝文・米マーケット情報】2022年5月17日
日本飼料工業会が今年1月にまとめた「飼料産業と日本飼料工業会に関するAtoZ」と題する小冊子に配合・混合飼料の原料使用割合(令和2年度)と言うデータが出ている。それによると最も多いのがトウモロコシで49%を占めている。次が大豆油粕で12.9%、その次が槽糠類で10.3%となっている。コメはというと僅か4%である。全体に占める割合は4%に過ぎないが、同工業会会員社が使用した飼料用米は令和3年産では31万2000tにもなる。それだけ飼料用穀物の需要のパイが大きいという事なのだが、世界的に穀物の価格が上昇している現在、国内でどれだけ「飼料用米」が確保できるのか喫緊の課題になっている。
飼料穀物の値上がりで「コメ」に関心が高まっているのは日本だけではない。ネット上には中国は飼料穀物の代替需要品として砕米を300万t輸入する計画と言う情報も出ていた。砕米だけで300万tというボリュームも凄いが、世界的にコメを取引しているブローカーの中には砕米専門に取引を行っている業者もいる。以前、バンコクで開催されたワールドライストレードショーでイギリス人の砕米専門トレーダーに会ったことがある。その頃は、砕米は、それを特定の料理の材料に使うところやアフリカ向け、もしくはビールの副原料向けと言うのが主な需要だと聞いていたが、最近はトウモロコシなど飼料穀物の値上がりで飼料の代替穀物として使われる需要が大きくなっている。
日本飼料工業会の飼料月報に配合飼料価格の動向が出ており、それによると平成年間は1t6万円台であったが、令和2年後半から値上りはじめ4年1月には8万3381円まで急騰している。近年の動向として・平成30年には、南米での作柄悪化懸念等によるシカゴ相場の上昇や、船腹需要の増加等による海上運賃の上昇等により配合飼料価格は上昇・令和2年には、4月以降新型コロナウイルス感染症の拡大等に伴うシカゴ相場の下落等により、配合飼料価格も下落傾向で推移したが、10月以降中国向け輸出成約の増加や南米産の作況悪化懸念等によるシカゴ相場の上昇等により、配合飼料価格も上昇。令和3年以降も引き続きシカゴ相場の上昇等を背景に配合飼料価格が高騰―と記している。
飼料工業会組合員社が本格的に飼料用米を使用し始めたのは平成27年度からでその時は16万8000tを使用した。その後、28年21万8000t、29年23万5000tと順調に増加したが、30年からは逆に減り始め令和2年には16万3000tにまで減った。これは飼料用米が必要なくなったという事ではなく、国内での生産量が減ったことが原因。このため令和3年度に飼料用米の生産量が増えると一気に倍近い31万2000tにまで使用量が増えた。飼料工業会がまとめた飼料用米の使用可能数量は66万1000t(肉用牛4万t、乳用牛4万t、豚13万2000t、採卵鶏19万8000t、ブロイラー25万1000t)あるので、分かり易く言うと4年産では飼料用の生産量が倍になっても需要の受け皿はあるという事。ただし、配合飼料は家畜の種ごとに配合割合が違い栄養バランスをとるとこが必要なため何よりも安定した量を確保したいというのが最大の眼目なのだが、飼料用米の生産は主食用米の価格動向や政策によって大きく変動するためそれが上手く行っていない。飼料工業会としても安定供給確保に資するために青森や茨城の鹿島で地域飼料用米生産協議会と連携して共同買付などを行っているが、全体的な広がりを見せるまでには至っていない。
飼料工業会は飼料用米について以下のようなメッセージを発信している。①国内で生産された飼料用米を配合飼料として使用、我が国の畜産生産者の経営の安定を支援してまいります②私たちは、飼料用米の使用を通して我が国水田農業の活性化に貢献してまいります③飼料用米の取引に当たっては、適正価格による安定取引に務め、飼料用米生産農家の経営安定に協力してまいります④日本飼料工業会は、組合員飼料会社の飼料用米取引を支援し、併せて飼料用米産地との交流、連携等により農村地域の活性化に協力して参ります。
このメッセージ通りに飼料用米が生産流通するようになれば良いのだが、複数年契約の加算金廃止が決まったように国は飼料用米に対する助成措置を縮減する方向にある。さらに現在でも物流や保管問題で課題を抱えている中で、さらに量が増えるとなれば生産・集荷販売する側の能力を超えることになる。4年産米の生産拡大を呼びかける前に飼料用米政策を続けるのであれば抜本的な見直しが必要な時に来ている。
重要な記事
最新の記事
-
プロの農業サービス事業者の育成を 農サ協が設立式典2025年10月21日
-
集落営農「くまけん」逝く 農協協会副会長・熊谷健一氏を偲んで2025年10月21日
-
【サステナ防除のすすめ】水稲除草剤 草種、生態を見極め防除を(1)2025年10月21日
-
【サステナ防除のすすめ】水稲除草剤 草種、生態を見極め防除を(2)2025年10月21日
-
随契米放出は「苦渋の決断」 新米収穫増 生産者に「ただ感謝」 小泉農相退任会見2025年10月21日
-
コメ先物市場で10枚を売りヘッジしたコメ生産者【熊野孝文・米マーケット情報】2025年10月21日
-
【JA組織基盤強化フォーラム】②よろず相談で頼れるJAを発信 JA秋田やまもと2025年10月21日
-
【中酪ナチュラルチーズコンテスト】出場過去最多、最優秀に滋賀・山田牧場2025年10月21日
-
11月29日はノウフクの日「もっともっとノウフク2025」全国で農福連携イベント開催 農水省2025年10月21日
-
東京と大阪で"多収米"セミナー&交流会「業務用米推進プロジェクト」 グレイン・エス・ピー2025年10月21日
-
福井のお米「いちほまれ」など約80商品 11月末まで送料負担なし JAタウン2025年10月21日
-
上品な香りの福島県産シャインマスカット 100箱限定で販売 JAタウン2025年10月21日
-
「土のあるところ」都市農業シンポジウム 府中市で開催 JAマインズ2025年10月21日
-
コンセプト農機、コンセプトフォイリングセイルボートが「Red Dot Design Award 2025」を受賞 ヤンマー2025年10月21日
-
地域と未来をさつまいもでつなぐフェス「imo mamo FES 2025」福岡で開催2025年10月21日
-
茨城大学、HYKと産学連携 干し芋残渣で「米粉のまどれーぬ」共同開発 クラダシ2025年10月21日
-
まるまるひがしにほん 福井県「まるごと!敦賀若狭フェア」開催 さいたま市2025年10月21日
-
北〜東日本は暖冬傾向 西日本は平年並の寒さ「秋冬の小売需要傾向」ウェザーニューズ2025年10月21日
-
平田牧場の豚肉に丹精国鶏を加え肉感アップ 冷凍餃子がリニューアル 生活クラブ2025年10月21日
-
誰もが「つながり」持てる地域へ 新潟市でひきこもり理解広める全国キャラバン実施2025年10月21日