山林利用の崩壊と今の世の中【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第199回2022年6月2日
戦後の民主化、そして農林業の技術の進展、社会資本の整備は、こうした山村を大きく発展させる展望を切り開いた。そして山村の住民は農林業の発展に取り組み、その展望を実現させようと努力してきた。
しかし高度経済成長期以降、こうした努力は次々に水泡に帰せられた。エネルギー革命の名の下で急速に進められた産業用・家庭用の燃料の変化、農林産物の輸入自由化等のもとで、奥山、裏山が利用されなくなり、さらには田畑も利用できなくなり、山村の住民は農林業をやめざるを得なくさせられて過疎化が進み、限界集落、幽霊部落を作り出すまでになってしまった。
その結果、熊が奥山にだけ住む時代ではなくなった。里山、裏山にでさえ出没するようになった。里山、裏山が利用されなくなって奥山化しつつあるのである。それどころか町の中にさえ出没する(3~4年前にわが家から200mくらいの住宅地にも熊が現れてお年寄りに怪我をさせるなどという事件も起きている。20年前に数年間住んでいた北海道網走市の元わが家の周辺を4~5年前ヒグマが散歩していたとのことだった)のだから、町自体もおかしくなっているのかもしれないが。
それでいいのだろうか。
ここで改めてかつての山村の農業的・林業的土地利用方式をもう一度見直し、現在の発展した科学技術などの社会的生産力を活用して、山村を再構築していく必要があるのでしなかろうか。わが国では山間傾斜地の多さを生かしていくより他ないからだ。
山村に住む人々が何千何百年かけて築き上げてきた知恵を生かし、また狭くとも豊かな農林地を生かしながら、最新の科学技術を適用していけば、農林業生産はさらに発展できるはずであり、山間地の集落に住む人々も豊かに生きていけるはずである。さらにかつてと違って交通手段はあり、情報格差もなくなり、かつてのような都市と山村の格差も縮まってきている。
こうした可能性を現実のものにしていくこと、そして限界集落などという言葉を廃語にしていくこと、これが21世紀に課せられたわが国の課題なのではなかろうか(などと知ったふりして「説教」したくなる、年寄りの悪い癖だ)。
ある自然科学者がこんなことを言っていた、開発による自然と人間社会の境界の大きな変動+地球環境破壊が新型コロナウィルスなどの人間社会への進出を引き起こしたものだ、このままいけばこうした事態がこれから何度も繰り返されることになるだろうと。
これにもう一つ付け加える必要があるのではなかろうか。日本に見られるような新自由主義・グローバリズムの展開による農林業の衰退、過疎化の進展等による自然と人間社会の境界の大きな変動も野生動植物などの人間社会への進出を引き起こしたものだ、このままいけばこうした事態がこれから何度も繰り返されることになるだろうと。
そうなのである、新自由主義・グローバリズムの展開が問題の根源なのである。そしてコロナウィルスを蔓延させたのは、国境を超えての労働力、商品、資本の移動の自由化だった。となると、蔓延を防ぐために今度は国境を閉鎖せざるを得なくなり、海外に依存している労働力、部品、製品は入ってこなくなる。さらに国内での経済活動、人の移動を抑制せざるを得なくなる。かくして生産と生活に大きな混乱が引き起こされる。
このように、コロナウィルスは現代の資本主義の持つ問題点を浮き彫りにしており、このまま放置しておけばまた新種のウィルスが発生、蔓延し、大きな経済的社会的な混乱を引き起こし、生活を困難にさせることになろう。
これを機会に、改めて新自由主義、グローバリズム経済を見直し。国際・国内社会、政治経済のあり方を根本から考え直す必要があるのではなかろうか。
そんなことを考えて書いているさなかに突然ロシアがウクライナへの侵略戦争を始めた。そして人命を奪い、街を村を、農地を林野を、破壊しつつある、そして食糧問題を深刻化させている。さらに、戦争が最も愚劣で悪質な環境破壊であることは第二次大戦やベトナム戦争で証明済み、だから他国への侵略はしてはならないことになっているはず、それを堂々とやる、考えられない、困ったものだ。ともかく何とかしてロシアの時代逆行の非人道的な侵略をやめさせなければ。一日も早くだ。と祈りつつ、もう少し農業と林野の話を続けさせていただきたい。
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