(284)World Food Safety Dayを前に【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年6月3日
6月7日はWorld Food Safety Day、4年前に国連総会で採択されたものです。FAOの駐日連絡事務所によれば日本語は「世界食品安全デー」です。Websiteを見ると、この他にも多くの「国際デー」があります。
国際デーは年初から順に、世界マメの日(2月10日)、国際森林デー(3月21日)、世界ミツバチの日(5月20日)、国際お茶の日(5月21日)、国際生物多様性の日(5月22日)、IUU(注)漁業と闘う国際デー(6月5日)、そして今回の世界食品安全デー(6月7日)となる。
この後は、世界食料ロス・廃棄啓発のための国際デー(9月29日)、世界土壌デー(12月5日)、国際山岳デー(12月11日)である。一年間に10の国際デーがあり、5月には3つが集中している。12か月に10回となると、ほぼ毎月だ。
先月のミツバチ、お茶、生物多様性、いずれも非常に重要だが、正直に言えば日々に追われるうちに過ぎてしまった。各々に関係する生産者や業界団体、そして事務当時者にしてみれば年に一度の大事なイベントであり、国際的に関心を喚起するためにも貴重な機会であることは間違いない。
多忙な生活の中でひと時でも足を止め、「こういう問題があったな」と考えるだけでも、恐らくその後の一人ひとりの行動にはいくばくかの違いが生じるのであろう。
今年の「世界食品安全デー」のテーマは「Safer food, better health」である。「より安全な食品、より健康に」とでも訳すのだろうか。実はfoodという英語を日本語に訳す時にはかなり気を遣う。食、食品、食料、食物、糧、養分、場合によっては食事、など、さまざまな可能性が生じるからだ。
日本語ではfood safetyは「食品安全」あるいは「食の安全」と訳されることが多いが、前者が「食品」の安全と限定しているのに対し、後者には農業の生産現場から家庭やレストランなどでの消費現場までを含む広い意味が含まれる。畑で土がついたジャガイモもfoodなら、「肉じゃが」として家庭や居酒屋で出される料理もfoodである。
日本語の「食品」はどちらかと言えば、生産よりも消費現場に近いニュアンスが含まれている。畑でとれたままのジャガイモを示す場合には「食品」より「食料」あるいは「食物」とした方が腑に落ちるが、これは世代によるものか。
そのため、例えば「世界食の安全デー」とした方が言葉としてのfood safetyには広がりが出るが、意識的に消費サイドに軸足や視点を移しているのであれば、冒頭のとおりとなる、などと考えてしまう。
それにしても、国際デーの中にfood safety dayは存在してもfood security dayは存在しない点は微妙である。ロシアによるウクライナ侵攻後、3ヵ月以上を経て、国際的関心は各国のfood securityに集まっている。また、世界全体で見た場合、food securityは先進国よりも途上国で恒常的かつ深刻な問題である以上、国際デーのひとつとして存在しても良いのではないか。
もっとも、food securityという言葉自体、本来の「食料安全保障」が意味する範囲を現在では遥かに超えている。現実の「安全保障」は、国家や軍事面という元の意味から地域や家庭、そして個人レベルにまで拡大しているからだ。
そうなると「安全保障」概念の拡大にともない、「食料安全保障」概念がどう変わるかという点も十分に検討しておくべきだが、まだ今後の話なのかもしれない。
ところで、筆者は昔、米国でトウモロコシの相場に関わっていた時には毎年発行される「Old Farmer's Almanac」(古い農家の暦)を折に触れて見たものだ。基本的な需給や投資ファンドの動きだけでは説明がつかない農家や相場の動きを考えるときに有効な示唆を得たことが何度もある。ある時期になぜ、そのイベントが行われるかには、良くも悪くも意外とそれなりの意味や理由があるからだ。そういえば大航海時代の1494年、スペインとポルトガルが世界を2つに分けたトリデシリャス条約の締結は6月7日であった。
* *
農家は農家で、JAはJAで、そして企業は企業で、年中行事に組み込まれた定例のイベントが絶え間なく流れるのが現代社会のシステムです。流れに乗るのは楽ですが、時には立ち止まり、イベントの意味を考えてみると見過ごしていたものに気が付くときがあるのではないでしょうか。
(注)IUUとは、illegal, unreported, and unregulated(違法・無報告・無規制)のことです。
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