コロナ対策の協同組合主義的な改革【森島 賢・正義派の農政論】2022年6月27日
政府は、コロナ対策の新しい改革案を発表した。その内容は、司令塔機能を強化する対策だという。
だがそれは、小手先の変更を目指しているに過ぎない。だから、コロナ禍を最小限にする対策にはならないだろう。
コロナが小康状態にあるいま、そして、数年後に再び襲来すると予想されるいま、為すべきことは、コロナ対策の根本的な改革である。
それは、法令を改訂し、義務として、医療・看護・介護に携わる人たちに対策を実行させればいい、というものではない。
いま必要なことは、医療・看護・介護に携わる人たちが初心にかえり、その技術と技能を最大限に発揮できる体制へ転換することである。医療の最前線で奮闘している全ての人たちの、心を動かす体制への転換である。
それは、協同組合主義的な転換である。
コロナ対策の成否は、都道府県によって、さまざまである。上の図は、それを県民10万人あたりの死亡者数でみたものである。
最も成功しているのは、農村部の島根、鳥取、新潟、福井などの各県である。これらと比べて、都市部の大阪や東京などの死者数は1桁多くなっている。
この図を俯瞰すれば、農村部と都市部の間には大きな差がある。これだけの大きな差の原因は何か。
コロナ対策を改革するのなら、官僚機構をもてあそぶのではなく、現場から問題点を見つけ出し、現場から学び、そこから改革しなければ、実効性あるものにはならない。
◇
農村部と都市部との差の原因には、様々なものがあるだろう。
都市部には「カネだけ、オレだけ、イマだけ」という3ダケ主義が濃厚にあって、人の心を蝕んでいる。
だが、農村は希薄である。
◇
3ダケ主義の医療における弊害は、関係者は私的利益を最大化することを最重要な目的とし、そのために契約をし、行動するという点にある。そして、契約で約束した義務だけ果たせばいい、と考える。だが現場では、そうはいかないことが度々ある。
達観すれば、これは医療における資本主義の弊害である。農業や教育にも同様なことがある。農業や教育の現場で資本主義を貫徹しようとしても、うまくいかないことが多い。
農業を主な産業とする農村でコロナ禍が比較的軽微な原因は、現場に即して資本主義を修正しているからだろう。そうした修正は、農村では日常的に行っている。そして、医療の現場でも、それを行っているのだろう。
達観すれば、それは協同組合主義的な医療といっていい。
どこが違うか。
◇
それは、3ダケ主義による私的な利益の追求を最重要と考えるか、それとも、共同体の仲間の病苦を取り除くことを最重要と考えるか、という点にある。
コロナ対策を考えるとき、共同体では、その基本となる検査、隔離、治療の体制は、官僚が決めるのではない。共同体の仲間である医療・看護・介護の専門家を中心にして、仲間の全員が議論を尽くして決める。だから、全員が、心の底から暖かい心で感染者に対することができる。
これが資本主義的な医療体制とは違う、協同組合主義的な医療体制である。
この体制の構築に成功したのが、上の図で示した農村部の各県なのだろう。これらの県から学ぶことは、多いだろう。
◇
参院選のさ中にあって、社会を根底から揺るがしているコロナ問題について、各政党の主張が明確でない。
いま政治が第一に為すべきことは、中央集権的な司令塔機能の強化ではないだろう。地方への権限と財源の大胆な移譲ではないか。
そして、コロナ対策の協同組合的な再編ではないだろうか。そのことを、上の図が示している。
(2022.06.27)
(前回 コロナ対策は中国に学べ)
(前々回 文明の交代期に立って)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日