【浅野純次・読書の楽しみ】第76回2022年7月16日
◎白川優子 『紛争地のポートレート』(集英社クリエイティブ、1760円)
国境なき医師団(MSF)、ご存じでしょうか。著者はそのMSFが世界の紛争地、貧困地帯へ送り出している医師、看護師の一人です。最前線に立って自らの危険も顧みず、あるいは身を粉にして病人やケガ人、飢餓に苦しむ乳幼児の面倒を見続けます。
いわば紛争地医療のありさまが詳しく紹介されますが、そうした活動実態のみならず、交流した仲間たち、世界各地で出会った人々の素顔が生き生きと描かれて、心がほっこりします。凄惨な場面も多いのになぜか心温まるのは、スタッフたちの人間性の故としか理由を思いつきません。
興味深かったのは、医療現場だけでなくロジスティシャン(資材の物流スタッフ)とか組織を支える人たちの活動ぶりもしっかり描かれること。著者の派遣先はシリア、パレスチナ、イエメン、イラクなど中東が多いのですが、かの地での文化的話題、例えばニカーブ(例の、目以外を覆う真っ黒な頭巾)をめぐるエピソードなど、興味津々です。
でもやはり、医療施設まで攻撃されるような危険地帯でMSFの人々が強い使命感をもって頑張り続ける姿がいちばんの読みどころで、いくら支援しても支援しすぎることはないと思いながら楽しませてもらえました。
◎山本章子・宮城裕也 『日米地位協定の現場を行く』(岩波新書、990円)
ロシアのウクライナ侵攻以後、日本の防衛力強化と防衛費拡大が叫ばれています。でもその裏にある日米地位協定の理不尽さがますますかすんでしまわないか、ちょっと心配になってきました。
地位協定の問題点については山本章子『日米地位協定』(中公新書)はじめ優れた著作が多々ありますが、この本は米軍基地と自衛隊基地の周辺で何が起こっているのかを足で調べ回った、優れたルポルタージュです。
対象は三沢基地から首都圏の米軍基地、岩国飛行場、自衛隊築城基地、同新田原基地、馬毛島、嘉手納基地まで。周辺住民の思いは共通点もあり、特有の事情もあります。
騒音と危険とカネ。この連立複雑方程式をどう解くのか。当事者に限った話ではなく、日米地位協定を抜きにして考えても正解は得られないのでしょう。
本書からは、地位協定の矛盾は世界に共通する面もあるが多くは日本特有だということが浮かんできます。政治も国民ももっと興味と関心を持つべきだと改めて痛感しました。
◎和田秀樹 『「明るい人」の科学』(クロスメディア・パブリッシング、1518円)
人に嫌われたくないという人は多いでしょう。でも、人に好かれるよう努めている人は案外、少ないのではないでしょうか。
著者の専門は精神科ですが、昨今、あまりにたくさん本を出版されているのでちょっと迷いましたが、「明るい人」というテーマにひかれて買い求めたら、大事なことがけっこう多かったので紹介することにした次第です。
要するに人が明るいと周囲の人たちの受け取り方が変わり、その結果、物事が良い方向に回り始めるというのです。確かに暗い人のところに人は集まってこないし、物事が動くことはないですね。
では明るい人になるにはどうするか。自分を責めない、嫌なことは忘れる、なんとかなると考える、「ま、いいか」と言う、嫌な発言は聞き流す、など具体的なヒントがたくさんあります。苦虫をかみ潰したような人には誰も近づきません。笑顔と仏頂面。免疫力が高まるのは、笑顔のほうって、知ってましたか。
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