金が上がると切り花の日持ちが短くなる【花づくりの現場から 宇田明】第79回2026年2月19日
金(ゴールド)価格が上昇しているというニュースをよく耳にします。
インフレや不安定な世界情勢に備え、安全資産として金が買われているそうです。
金が高かろうと安かろうと、多くの人には直接の関係はありません。
ところが、金の高騰で、切り花の日持ちが短くなる可能性があります。
まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話です。
金が上がると、銀も上がります。
投資の世界では「銀は金の後を追う」と言われ、金が先に買われ、割安感から銀にも資金が向かうからだそうです。
銀が上がると、銀を主成分とする切り花用のエチレン阻害剤、「STS(チオ硫酸銀錯塩)」が値上がりします。
銀には、植物の老化ホルモンであるエチレンの働きを抑える作用があります。
切り花に、収穫後、短時間STSを吸わせることで老化が抑制され、日持ちが驚くほど伸びます。
そのため、世界中のカーネーション、スイートピー、カスミソウ、トルコギキョウなど、多くの切り花がSTS処理をしてから出荷されています。
コロナ禍以降、金価格は急騰しています。
2019年に1グラム4,900円だった金は、現在17,300円。
実に3.5倍の上昇です。
一方、銀も60円が209円で、3.5倍。
まさに「銀は金の後を追う」という格言どおりの動きです。
その影響で、STS剤も従来の約3倍への値上げが通告されています。
しかも銀相場に連動し、3か月ごとに価格を見直すとのことです。
これまでも原油高や国際情勢の変化により、暖房用燃油や肥料は値上がりしてきました。
しかし、資材が一挙に3倍になるという事態は、経験のない衝撃です。
値上げを受け、STS処理をやめたり、濃度を薄めたり、処理時間を短縮したりすればどうなるでしょうか。
日持ちは確実に短くなります。
さらに、スイートピーやデルフィニウムのように、STS剤で花や花弁の落下を防いでいる品目は、商品として成立しなくなります。
金が上がると切り花の日持ちが短くなる【花づくりの現場から 宇田明】第79回
日持ちが悪い、花が落ちる・・。
そんな経験をした消費者は、ただでさえ締めている財布のひもを、さらに固くするでしょう。
消費は減り、花農家の経営はますます苦しくなります。
他人事のように聞いていた金価格の高騰が、めぐりめぐって花の生産現場を直撃しているのです。
とはいえ、価格が3倍になったからといって、STS処理をやめるわけにはいきません。
STS処理が普及して40年。
いまこそ漫然とした使い方を見直し、科学的で厳密な処理によって、少しでもコストを抑える工夫が必要です。
エチレン活性を抑制するための最低銀量は、品目ごとに定められています。
たとえばカーネーションでは、切り花新鮮重100gあたり2μモルです。
必要な銀量から逆算し、STSの希釈濃度と処理時間を正確に設定する。
毎回新液に交換するのではなく、連続使用して最後まで吸い切らせる。
タイマーで時間を管理し、終了後は速やかに水へ移す。
こうした基本を徹底することが、無駄を省く第一歩です。
もちろん、これで3倍の値上げをすべて吸収できるわけではありません。
それでもSTS処理を継続することが、品質を守り、消費者の信頼を守ることにつながります。
いま花農家は、品質を守る覚悟を問われています。
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