切り花の寿命をのばす 銀が不老長寿薬【花づくりの現場から 宇田明】第43回2024年9月18日
切り花は体内で生成されたエチレンにより、老化が進みます。
エチレンの生成を止める物質が見つかれば、老化は抑制され、寿命(日持ち)が伸びるはずです。
花産業は、そんな夢のような不老長寿薬を見つけ、実用化しました。
銀が切り花の不老長寿薬です。
オリンピックのメダル、金・銀・銅の銀。
発見したのはオランダのVeen、1978年のことです。
硝酸銀水溶液をカーネーション切り花に吸わせても、銀は切り口付近に留まったままですが、硝酸銀とチオ硫酸ナトリウムを混合して錯塩にかえると、切り花は短時間で銀を吸いあげ、花に達することを発見しました。
この化合物は、チオ硫酸銀錯塩(Silver ThioSulfate anionic complex)で、STSとよばれています。
切り花に吸収された銀はエチレン受容体と結合して、受容体とエチレンの結合を妨げます。
そのためエチレンの生成と活性が抑制され、老化が遅延すると考えられています。
STSの処理はきわめて簡単です。
生産者は、収穫した切り花の萎れを回復させるために、水道水で水あげをしてから出荷しています。
その水あげを水道水ではなくSTS溶液にかえるだけです。
花店、消費者はなにもする必要がありません。
STS処理済みの切り花を水に生けるだけです。
いままでどおり、水に生けるだけで日持ちが2倍、3倍にのびるのです。
写真1は、収穫2週間後のカーネーションの状態。
無処理のカーネーションは、花がすでに萎れていますが、STS溶液を1時間吸わせたあと水に生けた花はまだまだ元気です。
無処理の日持ちは1週間ほどですが、STS処理では1か月、低温期なら2か月もちます。
写真2は、収穫後1週間のスイートピー。
無処理は5日ですべて落花しましたが、STS処理ではまったく落花していません。
STSには特許などがないので、だれでもつくり、つかうことができます。
1980年初頭には、STS商品が販売され、世界に普及しました。
日本でも欧米に遅れることなく、切り花へのSTS処理が普及しました。
花が属する園芸学会は昨年が100周年でした。
花の栽培技術開発の歴史において、STSほど劇的な効果をもたらした技術は過去にはありません。
人間に例えると、80歳だった寿命が150歳、200歳に伸びたのですから。
また、STS処理の普及率も驚異的です。
カーネーション、スイートピーなどの切り花は、日本を含む世界中でSTS処理がされています。
カーネーションがメイドオンアース、地球産の商品として世界を駆け巡っているのはSTSで日持ちが伸びたからです。
繊細で日持ちが短かったスイートピーが、日本を代表する輸出切り花になったのは、STSで落花を防ぎ、日持ちが長くなり、長時間の輸送に耐えられるようになったからです。
なぜこれほど短期間で世界中にSTSが普及したのでしょうか。
効果が抜群であったことに加えて、処理が簡単だったからです。
処理コストが安いことも普及の大きな理由です。
銀は貴金属で高価ですが、使用するSTS溶液は10~100ppmで低濃度です。
そのため、処理コストは切り花1本当たり0.1円以下で、きわめて安価です。
STSの普及で、切り花はすべて長寿になり、日持ちの問題は解決され、クレームはなくなったのか。
さらには、切り花へのSTS処理は人体や環境に安全・安心かは次回検討します。
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