どんぐり拾い【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第371回2026年1月8日

「どんぐり コロコロ ドンブリコ
おいけに はまって さあ たいへん(以下省略)」(注)
この歌は大正時代につくられたとのことだが、戦前戦中の幼いころの私たちは歌ったことがあったろうか。ふと疑問になり、家内に聞いてみた。すると家内は記憶にない、この歌を歌ったのは戦後のことだと思うという。
その記憶は正しいかもしれない。幼かった戦前戦中は小学唱歌や軍歌などしか歌う雰囲気ではなかったからである。戦後2年目に新しい教科書が私たちの手元に渡されたが、その小学2年生用の音楽教科書にこの歌が載っており、私たちは弟妹たちが歌うのを聞いて覚えた可能性があるからである。
でも、と考えてしまう、軍歌一色になる以前、戦前の就学前にこの歌を聞いており、うろ覚えに覚えていたのではなかろうかと。戦後弟妹たちから聞いたときにとくに覚える苦労もなしに歌えたからである。また、最初の歌詞を「どんぐりコロコロ どんぐりこ」とずっと歌っていて、「どんぐりこ」が「ドンブリコ」の間違いだと知ったのは大人になってからだったことからもそう考えられる。つまり幼いころ間違って覚え、学校で直されることもなかったからそのまま歌ってきたのではないかと考えられるのである。
どっちが正しいかはわからないが、この歌は好きだった。どんぐりが可愛くて好きだったから、ドジョウに慣れ親しんでいたから(注2)ましてやだったのだろう。
なじみ深い栗と似た艶やかな栗色、小さい楕円形で頭がとんがり、下は灰色の袴をはいており、それをひっくり返すと袴は帽子に見えて実全体が顔に見えるようにもなり、何ともいえず愛らしい感じで、私たちにとってはまさに「どんぐり子」だったのである。
このどんぐりこ、山林から離れている地域に住む子ども(私がそうだった)たちにとって貴重だった。宝物のように見えた。子ども向けの本などにどんぐり拾いのことが載ったり、弥次郎兵衛をつくろうなどという記事を見たりするとうらやましかった。どんぐりの木が、山が近くになかったので、拾うことなどできなかったからである。誰からもらったか記憶はないが、たまにもらうと本当にうれしかった。それでとくに何をするわけでもない。持っているだけ、見ているだけ、友だちや弟妹に見せてうらやましがらせるだけでしかない。おもちゃにしてままごとなどで遊ぶだけの数もなかったからだろう。まさに私たち子どもにとっては貴重品だった。といっても、何日かすると興味を失い、どんぐりのことなど忘れてしまうのだが。
そんなことからだろうか、大人になっても、何かのおりに秋とか早春に山に入ってどんぐりが落ちているのを見ると、ついつい拾いたくなったりしたものだった。
二十数年前、わが家の改築をしたときに庭師さんが庭のモミジの間にミズナラを植えてくれた。3~4年したらどんぐりの実をつけ、秋になると下の杉苔の上に落ちるようになった。どんぐりとはまったく縁がなかったのに、まさか毎年庭で見られるようになるなどとは考えもしなかった。といってももう拾って喜ぶ年齢でもない。それで落ちたまま放置しておくと翌年芽が出る。放っておいたら大きくなってしまうので抜いているが、何か申訳ないような気がしてしまう。そんな思いをしなくともよいように、秋にはどんぐりを拾うことにしたものだった。
こんなことで、どんぐりに対する知識は本当に少なかった。どんぐりは「どんぐりの木」という木があってそれに生るものだとすら考えていた。そうではないとまともに知ったのは成人になってからではなかったろうか。
どんぐりは、ブナ科コナラ属のコナラ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ、シラカシ、カシワ、同じくブナ科のマテバシイ属のマテバシイなどの樹木の果実の総称だったのである。
どんぐりについて私がいかに無知であっても、苦くて食べられない、このことだけは小さいころから知っていた。栗の実と似ているので皮をむいて食べたくなるのだが。
前に本稿に登場してもらっている仙台生まれの萱場猛夫君(元山形大学教授)の子どものころは「どんぐりを食べるとどもりになる」と年上の子から教えられたものだったというが、私は覚えがない。
(注)作詞:青木存義,作曲:粱田貞、1922(大正11)年
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