【世界を診る・元外交官 東郷和彦氏】高市外交の"薄氷" 日中の"穴"大きく2026年2月20日
2月8日の衆議院選挙の結果、自民党は316議席を獲得、一つの政党が獲得した議席数としては戦後最多という圧勝をした。政治の世界においても、個人の生き方においても、圧倒的勝利を得た時が、その真価を問われる時になる。
元外交官 東郷和彦氏
現代の国際政治の分野では、いまから約35年前の1989年から1991年、冷戦が米国の圧倒的独り勝ちによって終了した。独り勝ちした米国は傲慢になった。米国を勝利させた米国の優れた価値に従え。従わないで抵抗するなら、そういう国は二度と抵抗できないところまで排除する。そういう価値観を世界は「ネオコン(新保守主義)」と呼び、その後の歴代6人の大統領は概ねその流れに乗った。特にそれを代表したのが共和党のGWブッシュ(子供の方)と民主党のバイデン大統領だった。
しかし、この傲慢な政策は成功しなかった。ウクライナと中東で挙がった反旗を処理できなかった米国を、いまトランプが処理するために必死になっている。本号では、いわば、1990年ごろの米国のような「戦後最大」の勝利を国内面で収めた高市早苗政権に、国際政治の観点から何を期待するかについて、述べてみたい。
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高市政権は今回の選挙は「高市が日本を引っ張っていくことを信頼するか否かについて国民の信を得たい」という「信任投票」であることを強く訴え、国民は信を与えたということになる。総理の政策の中身は未知数であるが、国際政治における、素材はある程度明らかになっている。
欧州におけるウクライナ戦争、中東における複合戦争、東アジアにおける米中の緊張という国際政治の荒波が今世界を揺るがしている。その中で、おそらくこれから出てくる組み合わせは、①安全保障力の強化及び②日米同盟の堅持の二つを基礎に③国論を割るような重要国策への思い切った取り組み(憲法改正等)が入ってくるという構図になるのではないか。
そういう流れの下で、一つだけ、絶対に忘れてはならないのは、対外政策を決めた時に、その相手側がどうみるかについて、冷静・客観的・謙虚に見なくてはいけないということである。
高市総理がそういう視点から見なくてはいけない最大の相手国は、中国である。昨年11月7日の「台湾有事」をめぐる国会答弁以来、戦後最悪の事態に陥っている対中関係をどうするのか。今年のミュンヘン安全保障会議(2月13日から15日)は様々な視点からとても興味深かったが、わけても中国の王毅外相が、質疑応答の最後に滔々(とうとう)と述べた「東アジアにおける日本の脅威」は、高市総理個人が11月7日に行った一つの発言に対する批判を超えた、日本全体が反中国に転換したのではないかという懸念と反撃と聞こえた。
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気を付けなくてはいけないのは、欧州と米国の対中政策の動向である。マクロン仏大統領(2025年12月3日~5日)、スターマー英国首相(2026年1月29日~31日)、メルツ・ドイツ首相(2026年2月24日~27日予定)が大規模な経済代表団を従えて北京詣でを行っているのは偶然ではない。
さらに米国は、すでに2025年10月30日韓国・釜山に於いて米中首脳会談を行い、トランプは、自らのSNSに「G2を間もなく開始する」と書いている。まさに高市・習近平の最初の首脳会談が同じ場所で行われ、高市総理のつまずきが始まったのと同日である。
トランプの訪中は4月に予定され、習近平の訪米は年末と言われている。台湾問題を争点として中国と争おうという気配は少なくともトランプから発せられていないし、経済問題を軸に米中がどのようなディールを実現しうるかが大方の関心の中心である。
そういう全体状況の中で、日本は抑止と対話の均衡を保ちつつ、中国との間に空いた巨大な穴を埋めなくてよいのか。政権にとっても、日本国民にとっても重要な時が来ると思う。
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