長寿企業の教えからJAの経営を再考しよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年8月2日
長寿企業が大切にする、一に従業員、二に顧客、三に地域社会
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
いまから40年ほど前、日経ビジネスが提起した「会社の寿命は30年」が話題を集めました。会社の成長や発展について、総資産や売上高などの変化を分析したもので、企業が誕生し、絶頂期を迎えて活動する期間は30年ほどであることを発見したのです。ただし、この調査は1896年(明治29年)以降、10年ごとの日本企業トップ100社のデータをもとにしたものです。
駆け出しの経営コンサルタントだった私にとっては、「会社の寿命は30年」というフレーズが、しっかり頭の片隅にインプットされました。そして、会社は人間同様に寿命があるということも。
一方で、日本の長寿企業数の多さは世界一です。創業から100年以上が経過しているわが国の老舗企業数は3万7,600社(2019年、帝国データバンク調査)でダントツの世界1位、2位はアメリカで1万9500社、3位はスウェーデンで1万4,000社。
私も40歳を過ぎ、ビジネスに関連して欧米の大学や研究機関への会議やワークショップなどに出かけていく機会が増えました。そこで感じたことは、海外の経営学者やコンサルタントの興味の一つが、「なぜ、日本には長寿企業が多いのか?」の疑問であること。
最初、この種の質問には、日本から参加している同僚の研究者の答えを拝借して、日本本土は戦火に遭うことも大きな天変地異の経験もない、島国であって競争よりも協調を重視する風土がある、などと答えていました。ちゃんと答えられるようにしたいと思い、関係書を読み、地方への出張の機会を使って、300年以上の歴史を持つ会社の代表者の話を聞かせてもらおうと思いました。
菓子折一つで、多くの関係者のお話を聞かせてもらいました。そのなかで、共通している点は3つ。第1は、従業員を大切にすること、第2は、顧客を大事に、育てること、第3は、地域のみなさんに喜んでもらえる地域社会との共生、です。さらに、経営の具体的な話で、印象深い話は「売上増は七難隠す」という言葉です。売上げしか見ていないと、経営は安定しない、進化しない、という話です。
見直したい、事業実績や取扱高ばかりに目を向ける経営
JAの歴史のスタートを戦後の農協法の施行の1948年とすると、JAの現在の寿命は74年。会社の寿命30年をはるかに超えています。だから、素晴らしい経営を行ってきた、といえるかどうか。相当に疑わしいですね。口の悪い人は、組合員に甘え、組合員の上に胡座をかき、困れば、政府に助けてもらったからだ、と言います。
私には、先の「売上増が七難隠す」が、JAにそのまんま当てはまってしまう、と思えるのです。売上げや取扱高が増えさせすれば、すべてよし、という風潮は、JAのなかに長らく続いたように思います。事業実績にこだわりすぎ、自らの改革や変革を棚に上げ、1970年代末から80年代にかけて、JAが行った組合員や職員を対象にした全利用運動の展開は恥ずべきものでした。組合員も職員も、JAの事業を全利用するのは当たり前であるという、きわめて傲慢な発想と強引な行動を運動化したものでした。この6年間の"逆走"が組合員のJA離れ、職員のJA離れを誘引した、と見ています。
当時を振り返り、JAの経営者から聞いた話は、事業高、契約高、取扱高の向上は、組合員のJAに対する支持度を表している、JAは組合員組織であり、組合員の結集度でもあると、上部組織から言われたようです。
「七難」の課題解決へ知恵とアイデアは現場職員にあり
時代が変わり、JAの公式な文書にも、組合員志向、組合員満足、組合員にとっての組織価値などの言葉が頻繁に登場しています。しかし、JAの業務報告書の組合長挨拶を読むと、組合員への感謝とJAへの信頼と安心を求め、将来に向けた経営の理念や方針を論じるのではなく、厳しい環境の中で、今年度の事業実績を中心に説明しています。
売上増よりも「七難」に向き合い、事業実績如何に関わらず、組合員対応やサービス内容、JAの事業体制、支所や事業所などの店舗施設、職員の資質・教育など、先送りせずに取り組むことです。その際、重要なことは、現場の職員が解決の知恵を持っていること。毎日、組合員と接している職員は理解しています。
最近は、事業実績は下がっても、収益性を重視しろ、という経営者も増えました。でも、収益を生み出す事業を行うことは、できるだけ経費をかけずに、現有勢力で事業を行って収益を上げろという意味です。そうなると、利用する組合員数や利用者数を増やすか、利用単価・頻度を上げるか、あるいは、利用度の高い組合員の利用を増やすことを優先すべきか、いずれかを実行するです。それを、一番理解し、実行できるのは、現場の職員です。
これまで先送りしてきた「七難」のなかで、優先度の高い課題から解決していく必要があります。スピード感をもって取り組むためには、現場の職員の知恵やアイデア、意見をしっかり聴き、活かすことです。組合員や顧客から遠い存在の職員には、具体的なアイデアはありません。
長寿企業がもっとも重要視することの一番目にあげているのは「従業員を大切にする」ことです。経営者は、「七難」を解決するために、そして、経営の成長のために「従業員を大切に」しています。
◇ ◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日