(293)「一時金で廃業」政策、また繰り返し【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年8月5日
日本中、とてつもない暑さです。少し朦朧としながら、かつて起こったこと、そして現在起こっている事を思い出してみました。多少のデフォルメはご容赦願います。
その国をA国としよう。1960年代くらいまで、A国の農産物貿易にはほとんど何の問題もなかった。代表的な農産物は海の向こうの大きな需要を持つ地域にいくらでも輸出できた。ところが、1970年代に入ると石油ショックが海上輸送運賃の高騰を招き、次いで昔からの顧客は近隣各国とまとまった経済圏を構成し、圏外からの農産物には高い障壁をかけた。
その結果、1960年代にはA国の農産物輸出の7割以上を占めていた特産品は、2010年代後半には約1割にまで落ち込んだ。簡単に言えば、半世紀前のA国は特定農産物を特定地域に輸出していたのだが、現在では世界各地に分散輸出している(というか、そうせざるを得なくなった)。
かつての石油ショックによる価格高騰を受け、当時のA国政府は様々な対応を講じてきたが、その中には農産物の最低価格支持や、低金利融資、税制優遇などがある。こうした制度を完備していくにつれ、農家の生活はそれなりによくなったが、実は想定外の悩みも増え始めた。
長期的に農業が継続出来ないような土地がいつのまにか農地となるだけでなく、そこに助成金が支払われ続けた。さらに、各種制度が完備された割に新規就農者が減少したり、生産性が低下しただけではなく、そもそも助成金がなくては農業そのものが成立しないような構造が出来上がってしまったのである。同時に、助成金を支出するA国政府の負担が年々増加しただけでなく、石油ショックからわずか10数年で世界の他の国から見ても余りにもおかしな競争力の無い不思議な農業の形がA国の特殊な農業として普通になってしまったのである。
A国国民もようやく事の重大性に少しは気が付いたようだ。そこでA国では、国全体で構造改革の動きが始まった。課題を認識して、具体的な対応計画を文章化し、一斉にその計画を実行していくのは得意という国民性がこういう時はうまく機能したようである。わかりやすい改革として、それまで当然と理解されていた各種助成金を廃止し、過大評価されていた為替レートも国際市場における実力に見合ったものに修正された。
一連の改革により、当然のことながら、農家の所得は激減し、農地価格も暴落した。国内では多くの不満の声が上がった。また、当時は世界的にも農産物が豊作の時代であったため、A国の農家は多大な負債に直面し、実のところ改革はなかなか進展しなかった。
次に考えられたのが、一見存続不可能と思われる農家の集約作業である。1980年代後半に農業「脱出パッケージ」と称される、一時金(当時の金額で450万円強)の仕組みが登場した。負債で手も足も出なくなった農家はこの金額を受け取り、自分自身の意思として廃業して農地を手放すか否かの決断を求められたのである。
だが、農家経済は最悪の状態が継続したにもかかわらず、意外と離農する農家は少なかった。この一時金は制度としては注目されたものの、後から見れば実際に手を出して離農した農家は総数の1%程度とされている。目の前のはした金に手を出すよりは、しっかりと踏みとどまったという訳だ。
実はA国の農家数は、当時とそれほど変わっていない。だが、政府の助成金はかつてとは異なり、ほとんど無くなり、生産性は(一説によれば)改革前の4倍に向上したという。よく言えば、農家がしっかりと自立した、悪く言えば、強制的に独り立ちさせられたということか。農業を研究する人達は、上述した「脱出パッケージ」のような目新しい政策ではなく、A国とA国農家の何が本当に変わったかをしっかりと研究してほしい。
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「500万くらいで廃業はできんわ」と思われた方、そういえば今年の2月、A国ではなくB国から「約1,600万を受け取り、廃業するかどうか」という政策が出ていましたね。これも知恵を絞った結果なのでしょうか。
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