後遺症に悩み苦しむ被災地【小松泰信・地方の眼力】2022年8月31日
「泥じゃなく人を見ろ」「ごみじゃない。そこに生活や思い出がある」「災害の大小、人の多い少ないは関係ない」「『作業』や『数』で片付けない」等々は、宮城県大崎市社会福祉協議会古川支所長で災害ボランティアセンター責任者の加藤大介氏の言葉(河北新報8月29日付)。
何が「アンダーコントロール」だ
政府は8月30日、東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域のうち、双葉町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示を解除した。原発事故から11年5カ月を経て、県内で唯一全町避難が続いていた町で居住が可能になり、すべての自治体で住民が暮らせるようになった。
「今後は住民帰還や移住・定住の促進に向けた施策が求められる」とする福島民報(8月30日付)は、「避難生活の長期化により、意向調査で帰還を考えている人は約1割にとどまる。準備宿泊の登録者数は7月末時点で延べ52世帯85人、避難指示解除まで継続的に登録したのは8世帯13人だけだ。町民のつながりをどう保つかが課題になっている」ことや、「復興拠点外には7月末時点で2000人が住民登録している。政府は2020年代の希望者の帰還を目指しているが、住民から全域除染を強く求める声が上がる。町は今後も全域除染と解除に向けた具体的な施策の明示などを国に求めていく」ことを報じている。
冒頭の河北新報は、福島県大熊町で28日から2日間の日程で、東京電力福島第1原発の廃炉について考える国際フォーラムが始まったことを伝えている。
初日に、主催した原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の理事長が廃炉の展望などを説明した。これに対して大熊町からの参加者は、「廃炉で出た核のごみをどう処分するのか聞きたい。明確な説明がない現状では、子どもに『町に戻ってきて』と言えない」と訴えている。
またパネルディスカッションでは、「処理水放出前に海水で薄めても放射性物質の総量は変わらないのでは」など、登壇した住民から東電や経済産業省、原子力規制庁に疑問が投げかけられたとのこと。
どこをどう見たら「アンダーコントロール」と言えるのか、地獄に向かって問い続けねばならない。
岩手県大槌町に学ぶ大学生
大熊町の記事と並んで、8月28日岩手県大槌町で行われた、東日本大震災の被災地で学び合い、発見したことを伝えようと五つの大学のゼミが合同で実施した「大槌リサーチプロジェクト」の成果報告会の記事が載っている。
岩手県立大、東北公益文化大、福知山公立大、京都産業大、神戸大の学生は、混成された4班に分かれて4月からオンラインミーティングで調査テーマを決め、事前学習を進め、26、27日には聞き取り調査などを行った。報告会には、協力した地元関係者らを招いた。発表テーマは「災害伝承とまちづくり」「三陸鉄道と地域活性化」「ジビエと地域資源活用」「漁業と関係人口づくり」。
「ネットでの情報収集とは全く違う直接会った人の言葉の力を学生は強く感じたはず」と語るのは役重真喜子氏(岩手大准教授・行政学)。
失われた地力と地域のコミュニティ
同28日、仙台市若林区で行われた「被災地から日本農業の再生と食料主権を訴えるシンポジウム」にシンポジストとして出席。
27日には、仙台市の沿岸部にある若林区荒浜地区へ。震災当時、約740世帯2000人以上が暮らしていたが、そこを大津波が襲い、当日周辺にいた人を含む186人が亡くなった。
震災から数カ月、仙台市は荒浜地区を含む沿岸部1213ヘクタールを住宅の新・増築ができない「災害危険区域」に指定した。
震災時に、児童や教職員、住民ら320人が避難し、2階まで津波が押し寄せた荒浜小学校は、震災遺構として公開され、津波の脅威や教訓を後世に伝えている。4階展示室で上映されている「3.11荒浜の記憶」を観て、すべてを奪い去った津波の恐ろしさに改めて言葉を失った。
シンポジウムでは、同地区において約90ヘクタールの経営規模で、米、麦、大豆を中心とした大規模農業を営む「農事組合法人せんだいあらはま」の代表理事松木長男氏が、大規模農業経営が直面する問題点を語った。要点は次のように整理される。
(1)年商1億円だが経費9000万円。残る1000万円は機械更新のための積み立て。
(2)津波で表土がなくなったため、地力の低下が著しい。有機肥料を投入したいが近隣に畜産農家はなく、遠距離から運べば高コスト。化学肥料に頼らざるを得ないが、化学肥料の効果は1年で、かつ価格が高騰しており経営を圧迫している。
(3)今でも瓦礫が出てくるので大型機械の消耗劣化が早くて激しい。近年、年200万円ほどの修繕費用が発生している。
(4)震災以前の小規模経営の時には、細やかな管理ができた。自作地の横を通る道路ののり面に生える雑草なども、ボランティアで刈っていた。しかし大規模の農地を抱えると、そのような無償行為はとてもできない。しかし、行政は、小規模農家が黙ってやっていたことを、大規模になってもできるものと思っているようだ。景観の悪化とともに、病害虫の住処ともなるので、けじめのある行政対応を求めている。
(5)地主が耕作地周辺にいなくなった状況で、どれだけ地域の農業を我がこととして支えてもらえるのか不安である。法人の後継者も荒浜地区外の人になる可能性大。いかに後継者を集め、育てていくか、大きな課題である。
この他にも町内会の運営に腐心されている方々から、津波が奪い去った地域のコミュニティを復活させるための取り組みや、伝統文化を伝承するための活動などの必要性と、そのために必要な行政の支援や制度改正などについて多くの意見が出された。
震災を風化させる気か「食料・農業・農村白書」
『令和3年度 食料・農業・農村白書』の「第4章 災害からの復旧・復興や防災・減災、国土強靱化等」の第1節は「東日本大震災からの復旧・復興」を取り上げている。復旧・復興の状況に対する、農水省の認識を次に示す3つの見出しが端的に示している。
(営農再開が可能な農地は95%に)(地震・津波からの農地の復旧に併せた圃場の大区画化の取組が拡大)(先端的農業技術の現地実証研究と研究成果の情報発信等を実施)
現場知らずの魂の籠もらぬ文字の羅列。これじゃ、風化を促進させるだけ。被災地が後遺症の苦悩から解放される日は遠い。
「地方の眼力」なめんなよ
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