国産硬質小麦の開発と普及【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第215回2022年9月22日
家内は米食派なのだが、たまにパンを食べたい、できれば自分でつくって食べたいと言う。そしてその昔パン焼き器を買った。しかし、外国産の小麦でつくったパンを食べるのは米の消費を減らし、食糧自給率を下げるという罪悪感があるせいか、あまりつくらなかった。
ところが国産小麦を使った強力粉ができた。これでパンをつくるのは自給率を減らすことにはならない。国産小麦の消費拡大になるし、転作小麦であれば水田の有効利用になる。こういうことから、パンを堂々とつくり、昼飯としてときどき食べていた。ただし私は食べない。パン食(アメリカの小麦戦略)に対する抵抗感があるし、パンというのは私にとっては代用食あるいはお菓子という感じでしかなく、しかも腹持ちがあまりよくないからだ。でも、家内から一口もらうときがある。パンを焼く香ばしい匂いは食欲をそそるし、作りたてのパンにバターはやはりおいしいからである。
しかし、せめて日本麺(うどん・そうめん)用小麦だけでも国産を食べたい。そう思っていたら、日本麺にしめる国産小麦の割合はやがて7割にまで増えてきた。これはうれしかった。
だけど、中華麺等にしめる国産小麦の割合は1割強、パン用小麦にいたってはわずか2%にすぎないとのことだ。
パンに関して言うと、パン屋さんのほとんどが国産小麦を使ったパンをつくっていないのだからこれも当然である。外国産小麦に適合する機械・施設を使っているからだ。それなら機械・施設を変えればいい。しかし、とパン屋さんはいう、国産小麦が一定の量、安定した供給が保証されるならいいが、まだそこまでいっていない、それで変えるわけにはいかないと言う、それもそうだろう、不作で足りなくなって外国産小麦を買わなければならなくなり、そのたびに機械施設を変えなければならなくなったら困る。一定の味で一定の量を安定して供給しなければお得意さんは離れてしまうからだ。ところが現在の国産小麦の生産は量的に安定しているとはいえない。この問題をいかに解決していくか、農業生産の側に課せられた課題はまただまだあった。
それでも以前から見ると国産小麦はかなり伸びた。もっともっと伸ばす必要があるし、また可能性もある。一層の品種改良と栽培技術の改善、製パン・製麺方法の改善等に力を入れると同時に、消費者には意識して国産小麦を購入して応援してもらいたいと考えたものだった。
北海道では、輸入小麦から道産小麦への利用転換を推進する「麦チェン」運動を展開してきた。とくに、08年に開発された「ゆめちから」(品質は超強力で、中力粉とブレンドしてパンや中華麺の製造に使う新品種)の普及に力を入れてきた(こうした国産小麦の利用運動をぜひ全国的に展開してもらいたいものである、もちろん米、米粉の消費拡大にも力を入れてもらいたいが)。
北海道から離れてもう15年、こうしたニュースはあまり入ってこなくなった。代わりに東北のニュースが入ってくるようになった、そして着実に国産小麦の使用は増えていった、
先日(22年5月13日)、今私の住んでいる宮城県の地元紙「河北新報」の一面トップ記事に『宮城の給食パン 小麦100%国産に』という見出しが躍った。宮城県産と北海道産を5割ずつ配合して国産100%になったというのである。その鍵となったのが盛岡市にある東北農業研究センター(かつての国立東北農業試験場)が開発した「夏黄金」(コシの強い生地ができ、膨らみやすい等の製パン適性が高い)の育成が完了したので可能になったとのことで、東北3県目なのだそうである。
これはうれしい、そうなのである、まだまだ日本の農業はやれる、発展の可能性はあるのだ。過疎化は進む、農地は荒れる、大雨等の被害は多発する等々、多くの問題を抱えてはいるが、解決の展望はあるのだ、しばらくぶりで明るい気持ちになった。
それはそれとして、私が北海道に来てから改めて勉強させてもらったことに今言った麦作以外にも数(あま)多(た)あるのだが、その一つに農家の女性が穿き、さらに戦中は日本の女性のほとんどが穿いた(いや穿くことを義務づけられた)「もんぺ」の話しがある。これはあまり知られていないと思われるので、次回から紹介させていただきたい。
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