(303)ヨーロッパのトウモロコシ需給【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年10月14日
日本にいると北米やアジアの動向ばかりに目が行きがちですが、ヨーロッパの動向も気を付けておく必要があります。今週はヨーロッパの動きを見てみましょう。
米国農務省が10月12日に公表した世界の穀物需給動向の中で冒頭記事はヨーロッパの穀物需給、とくにトウモロコシである。昨年9月から今年8月末までの穀物年度の数字が出そろったというタイミングもあるが、注目すべきはEUのトウモロコシ輸入が前年度同様に2,000万トン水準とされている点だ。
世界の穀物需給を見ていると、EUはEUとしての数字でありメンバー各国の数字を知りたい時には各国政府の統計を参照しなければならない。こうした点は「いずい」が、EUを全体として俯瞰する場合、米国農務省の統計は非常に有益である。

過去5年間のEUのトウモロコシ需給をまとめたものが別表である。平年であれば6,000~7,000万トン水準の生産量が、2022/23年度は5,620万トン、2007/08年以来の最低水準へと大きく減少する見込みだ。この背景は干ばつによるものと伝えられている。前年対比では79%にまで落ち込むこととなる。
一方、EUのトウモロコシ需要は年間8,000万トン水準である。これは中心が家畜用飼料であるため大きく減少することは難しい。さらに、数量はそれほどではないが、余裕のある年には年間300~500万トン程度の輸出も実施されていた。これも今後はかなり厳しくなりそうだ。3年前には500万トンを超えていたトウモロコシ輸出も2022/23年度は半減(270万トン)になることが見込まれている。
その結果、2,000万トン水準のトウモロコシ輸入が継続する...というのが米国農務省の見立てである。そういえば5年前には年間448万トンしか輸入していなかった中国が3年前には2,951万トンを輸入したことは記憶に新しい。
つまり、世界のトウモロコシの輸入という点で見た場合、今年から来年にかけて、EU(2,000万トン)、中国(1,800万トン)、メキシコ(1,770万トン)、日本(1,500万トン)、韓国(1,150万トン)と、年間1,000万トン以上の輸入者が凌ぎを削る状態が出現する。
EUは2,000万トンのトウモロコシをどこから輸入するか。距離的に見ても恐らくはブラジルが最有力(ブラジルのトウモロコシ輸出は4,650万トンで米国の5,700万トンに次ぐ世界2位)だが、南米ルートの他にも世界の注目を集めているウクライナ(1,550万トンの輸出見込み)から黒海を経由するルートでの調達タイミングをしっかりと見ているはずである。
一方、世界最大のトウモロコシ生産国の米国も、2021/22年度は3億8,289万トンのトウモロコシを生産したが、2022/23年度は3億5,296万トンへと約3,000万トンの減産が見込まれている。これを反映した米国のトウモロコシ輸出見通しは6,300万トンから5,700万トンへと600万トンの減少見込みだ。
こうした状況を見れば、今後、世界のトウモロコシ価格が大きく減少する要素は余りないかもしれない。不幸中の幸いとでも言えることは、EUにおける小麦と大麦の生産量は減産とはいえトウモロコシほどは落ちていないため、一定の代替が進む可能性である。
なお、穀物需給とは全く異なる面でEUの畜産農家が直面している課題として米国農務省が指摘している点は、依然として鶏インフルエンザ問題が継続していることと、それに伴い既に約5千万羽が処分されたことなどが伝えられている。飼料穀物価格の高騰だけでなく環境規制も厳しくなる中で、EUの畜産農家は一定の規模縮小も選択肢のひとつとして視野に入れざるを得ない状況が出現しつつある。
* *
ヨーロッパの畜産農家は、この冬、基本的な需給に加え、エネルギー確保という問題にも直面しそうです。
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