(304)「穀物自給率」が低い...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年10月21日
「食料自給率」という言葉を良く聞きます。農林水産省の「食料需給表」iには複数の視点から見た「自給率」が示されています。その違いの詳細は別として、少し興味深い比較をしてみたいと思います。
「食料需給表」を見ると、「自給率」に関係している項目が以下の8つ掲げられている。
・品目別自給率
・飼料用を含む穀物全体の自給率
・主食用穀物自給率
・供給熱量ベースの総合食料自給率
・生産額ベースの総合食料自給率
・飼料自給率
・供給熱量ベースの食料国産率
・生産額ベースの食料国産率
このうち、「品目別自給率」は文字どおりのものだ。例えば、令和3年度(概算)のコメの自給率は98%、大豆は7%などと記されている。少々ややこしいのはこの「品目別自給率」以外である。
実際には表の欄外に計算方法が示されているので是非とも確認して頂ければと思う(下記アドレスの「食料需給表」参考4)。これらの中で、一般的かつメディア等でよく使われているのは「供給熱量ベースの総合食料自給率」であり、令和2年度は37%、令和3年度(概算)38%というものだ。
ところで、同じ「食料需給表」の最終頁に「諸外国の穀物自給率(2019)(試算)」という表がある。これは「穀物自給率」のため、先の分類では「飼料用を含む穀物全体の自給率」に相当すると理解できる。穀物自給率28%の日本は179の国・地域の中で127番目、OECD加盟38か国中で32番目と説明されている。
ちなみに、この表の首位は440%のウクライナである。ウクライナ問題を語る際、小麦やトウモロコシの生産・輸出量の話はよく聞くが、穀物自給率が世界一とまで言及しているケースは少ないし、食料自給率と穀物自給率の違いとなればなおさらだ。
この表は179の国・地域の順番を、縦3列にうまくまとめている。記載は無いが、一番左が「穀物自給率」が「高」グループ、真中が「中」グループ、右が「低」グループとでも読み替えた方がわかりやすい。日本は「低」グループの一番上の方、アルメニアとハイチの間である。
この「低」グループの中で、日本よりも「穀物自給率」が低い国・地域が世界には52ある。こうした順位をどう見るかは読み手次第だが、あくまで国・地域を単位としての順位として理解しておけばよい。そうでないと現実的な意味がわかりにくい。現実的な意味とは各国の人口である。これが実際の必要量に直結するからだ。
例えば、「低」グループの中で人口が最大なのは圧倒的に日本である。第2位は韓国の5,178万人、第3位がサウジアラビアの3,481万人で、以下、人口1,000万人を超える国・地域は、イエメン、台湾、オランダ、ハイチ、キューバ、ジブチ、ポルトガル、ヨルダンであり、日本を含めて11となる。
言い方を変えれば、穀物自給率が日本より低い国・地域は52あるが、その半分は人口が100万人以下ということだ。フィジーの90万人などは多い方だ。人口50万人以下も16存在する。日本で言えば地方都市水準の人口である。OECD加盟国の中で、穀物需給率が日本より低いのは、韓国、ポルトガル、コスタリカ、オランダ、アイスランド、イスラエルの6か国である。
さらに興味深い点は、これら約50の国・地域の人口の合計である。ざっと見ても5億人に満たない。世界人口を78億人とした場合、非常にウエイトが少ない。
「自給率」を考える際、順位そのものも憂慮すべきポイントだが、同時に、日本よりも穀物自給率が低い国・地域の人口の合計がどの程度かを押さえておくことも重要なポイントだ。絶対的な必要量が異なるからである。
ここから先をどう考えるか。「低」グループの国・地域が穀物調達をどこに依存しているかという観点もあれば、「高」「中」グループの国・地域における生産、配分、流通の問題として見る方法もある。
* *
使い慣れた言葉に少し注意を払うと、やや異なる風景が見えてくるのではないでしょうか。
農林水産省大臣官房政策課食料安全保障室、「食料需給表 令和3年度」、アドレスは、https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/attach/pdf/index-13.pdf(2022年10月20日閲覧)
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