それでも続けるコメの出前授業を担う米屋さん【熊野孝文・米マーケット情報】2022年10月25日
小学校でコメの出前授業を行っている米屋さんから突然電話があった。出前授業で小学生から「コメって何ですか?」という質問があったそうで、その質問に相当落ち込んだとのこと。続けて「朝食でご飯を食べている小学生の数は100人のうち2~3人しかいないですから仕方ないですよね」と嘆息。出前授業を行っている米屋さんが落ち込む話はまだある。
小学校の先生から「米屋さんっていたんですね」と感心されたとのこと。米屋さん自ら「絶滅危惧種」と自虐していたが、世間ではまさにその通りと受け取られているのだろう。
コメを販売している業者数は全国で8万店ぐらいいると推計されている。このうち米穀小売店、いわゆる米屋さんは6000店から7000店程度とみられている。米穀機構の精米購入・入手経路調査によると、スーパーからの購入比率が52%であるのに対して米穀専門店からの購入比率はわずか2.1%に過ぎない。生産者からの直接購入4.5%、ネットから購入8.9%よりも少ないのである。
食管時代に組合員数が4万店もいた米穀小売店の全国団体日米連の組合員数はいまや2000店まで激減している。店数だけ見ると米穀小売店は元気がなさそうに見えるがそうでもない。
東京の米穀小売店で組織される東京都米穀商業組合(略称東米商 組員数716店)は、11月13日(日)に千代田区神保町で全国からこだわり米の生産者28社の出展を得て商談会を開催する。
「東京米(マイ)スターセレクションKIWAMI米2022商談会」と銘打った商談会の開催告知には「大消費地である東京で米穀販売を行っていくためには様々な機関との連携促進が不可欠であり、良質な仕入れ先確保、適切な機械導入等の後方支援を行う」とある。一番は、東京の米屋さんが売れるコメが必要だということなのだが、こうした事業を始めるに至った経緯は「組合員小売店がコメを仕入れられなくなった」ことにある。米穀小売店を主な販売先としていた事業協同組合系の卸はほとんどなくなり、量販店を主な販売先とする卸だけが生き残っている。
では「東京で売れるコメ」とは何なのかということになるが、この命題は深いので一端置くとして、東米商は、その一つとして「KIWAMI米」という独自のブランドを作ることにした。
KIWAMI米とはその年に収穫されたコメのうち東米商の組合員のうち東京マイスターの最高ランク「匠」の資格を持つ組合員27名が自ら試食して選んだコメで、すべて実際に試食して選んでいる。3年産ではこだわり米生産者が生産したコメ70点がエントリーして、金賞として16点が選ばれ、このうち3点が最高ランクのコメとして最高金賞を受賞した。受賞した3点は「(株)ファームフレッシュヤマザキ(新潟三条)・コシヒカリ有機JAS」、「(株)東山ファーム(新潟糸魚川)・コシヒカリ」、「岩井農園(滋賀)・ミルキークイーン無農薬」。
4年産米は5月の1次書類審査から始まり、審査を通過した68品検体を東京米スターが審査員となり、東京米スターセレクションKIWAMI米を決定する。さらに東京マイスター匠が試食審査して最高金賞米3点を選ぶ。コメのプロに選ばれた最高金賞米は13日商談会の席で最終審査結果が発表され、表彰式が行われる。
選ばれたコメは東米商が作成したオリジナルデザイン袋「東京米スターセレクションKIWAMI米最高金賞受賞」と銘打って販売されることになっている。
審査を行う「東京マイスター」とは、東米商独自の資格制度で、理念として「専門職として知識を生かした次世代への食育提案ができること」を掲げ、令和元年にスタートした。資格を得るには①コメに関する法令知識が身についていること②コメに対して食味・品質の見極めが身についていること③コメに関する栄養学、衛生管理等の知識が身についていることの3点が求められる。「匠」の資格を得るには、東京マイスターを取得して、3ステップのテスト受講を経て、合格者に認定証が東米商から交付される。
その東米商は組織として出前授業を支援している。
東米商は東京都の「令和3年度広域食育推進民間活動支援事業」の実施団体に採択された。昨年度はコロナ禍のもとで学校側の受け入れが進まなかったが、それでも合計66回の出前授業を実施した。この授業は、小学校に限らず幼稚園や自治体などすべての世代を対象として実施できるため裾野が広がっている。
出前授業は東米商の組合員小売店だけではなく、全国の各地で行われており、その多くが文字通り手弁当で行っている。
絶滅危惧種と揶揄されても米屋さんが「コメの大切さを小学生に訴えることは当たり前だ」という覚悟をもって続けるしかない。
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