グッドマンの法則を理解し、現場に活かそう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年11月15日
JAの「良さ」「強み」はサービス力アップに関係しない?
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
JAという組織の特徴の一つに、役職員は組合員とともに、同じ地域社会で生活をしていることがあげられます。同じ風土の下で、同じ空気を吸い、同じ風や温度を感じて暮らしています。1980年代、市町村単位のJAが多かったころは、職員は組合員のことを、組合員は職員のことを知っていました。
このような組合員と職員の関係は、お互いを良く知り、信頼関係にあることは、JA組織の大きな強みであるといえます。でも、組合員の事業利用について、不平不満や間違い・ミスなどがあっても、苦情やクレームを強く訴えるような組合員は少なく、事業サービスや職員への苦言がなかなか聞こえにくい組織風土であることも事実でしょう。
私の具体的な経験からいえば、支店や事業所における職員のミスや組合員のクレームが本店や本部に報告されず、支店長や所長の謝罪で済ませてしまい、問題や課題が顕在化しないという事態に遭遇したことがあります。現在でも、このようなJAがあるように思います。
いまさら確認の必要はないでしょうが、JAの事業は、すべてサービス事業です。1949年に新たな統計基準として設定された「日本標準産業分類」によれば、農業協同組合は,「その他分類されないサービス業」とされており、今日に至っています(現在は、「複合サービス業」に分類される)。
JAは協同組合ですが、民間の会社と同様に「経営体」ですから、当然のように、持続的な成長を図り、組合員や地域のみなさんへの高いサービスの提供と社会への貢献が目的であるはずです。このような目的を達成するためには、サービス事業者としての自覚を持ち、ビジネスのセオリーやハウツウを積極的に活用した事業の実践が望まれます。
先述したように、JAは地域社会と密接な関係にある組織特性をもつ反面、それが、サービス・ビジネスとしてマイナス面となりかねない事業環境にあることを認識し、諸対策を講じなければならないといえます。
民間のサービス企業と同様に、組合員の意見や不満などが速やかに反映され、サービスの品質改善に活かされる仕組みは必要です。事業の取扱高ばかりに目がいき過ぎ、組合員や利用者目線での検討や検証が不足しているように思います。また、同一地域内にある競合する企業とのサービス競争意識も足りないようです。利用調査や活用方法の検討など、定期的に実施してほしいものです。
「CS=顧客満足」は、JAのすべての事業の基本にしたい!
1990年代に入って、わが国に紹介されたCS=顧客満足という考え方は、日本中のサービス業に一気に広がりました。猫も杓子も顧客満足を唱えるようになり、CS経営の方針やマニュアルづくり、CS戦略の策定にCS研修、賑やかでした。しかし、JAの世界は、CSどこ吹く風で、JAの事業は組合員のために行っているのだから、当たり前のことだと笑い飛ばした職員もいました。
顧客満足について、本コラムで詳細に説明することは難しいですが、顧客満足度向上策として、多くの企業が最初に取り組んだ内容は、苦情やクレームを適切に処理する方法です。
たとえば、顧客の不満や苦情への対応方法として、広く知られているサービス業のセオリーに、「グッドマンの法則」があります。この法則は、ある会社のサービスに不満を持った顧客に対し、苦情を言った顧客に迅速に対応して解決することができれば、この不満顧客の8割をリピーター(再利用客)に変えることができるという法則です。
また、商品に不満を持った顧客は、それを11人に伝えるが、反対に、満足した顧客は5人にしか伝えない、という法則もあります。この法則は、地域に密着して活動するJAには致命的で、いかに不満客を少なくするか、こまめに組合員の意見や声をきくことの重要性はいうまでもありません。
このような「グッドマンの法則」を職員が知っていれば、JAの店舗を利用する組合員の態度や会話の内容に注視し、細心の注意を向けるでしょうし、不満そうな組合員や苦情を言われた場合への迅速な対応方法の学習やマニュアル化にも取り組むでしょう。
また、組合員から苦情を言われたり、クレームがあった場合に、それらの件数や内容を記録したり、本店・本部に報告する仕組みをつくることなどは、サービス事業を行うJAとしては、当然にすべきことです。いまだに、仕組みすらできていない、仕組みはあるけど形骸化していて機能していないJAがあるように思います。
職員にサービス教育すらしていないJAがあります。伝統的に事業論や商品の学習、セールス・推進方法などの研修は盛んに行われてきましたが、肝心な組合員や利用者から見る事業活動や商品、サービスのあり方を研修する機会が少ないのです。JAは、他のサービス企業が持っていない素晴らしい組織であることすらも、職員は学習する機会がないのです。不幸な状況であるといわざるを得ません。
JAのサービスの素晴らしさを再確認し、組合員への対応に活かすとともに、他の競合企業との差別化を図って欲しいですね。
※JAのサービスの特徴についての研修資料があります。希望者にはメールでお送りしますので、ご連絡ください。
◇ ◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
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