個性を磨いて性差を超える【小松泰信・地方の眼力】2022年12月7日
筆者は、JAグループや行政の委員会などで、女性の地位向上を目指す活動をサポートしてきた。男女共同参画から始まりLGBTQに関わる諸問題を自分事として考えてきたがゆえに、杉田水脈(みお)衆院議員が総務政務官になった時には、驚き、そして怒りを禁じ得なかった。なぜならこの人事は、ジェンダー平等社会の実現が遠のくことを意味しているからだ。

敏感な英国王室と鈍感な岸田政権
故エリザベス女王の側近で貴族出身のスーザン・ハッシー氏が、英国で慈善団体を運営する黒人女性に対して執拗な差別的質問をした。王室はすぐに「(ハッシー氏の)発言は受け入れられない」とのコメントを出し、氏が謝罪し王室を去ったことを、山形新聞(12月6日付)のコラム「談話室」が取り上げている。
「人種や人権に対する敏感さが前より求められる時代なのに、この種の問題は洋の東西を問わずに起きる。わが国には少数者を揶揄(やゆ)する発言で、物議を醸す政治家がいた」として、ブログに「アイヌの民族衣装のコスプレおばさん」などと投稿していた杉田氏を俎上にあげ、「LGBTに『生産性がない』とも述べ、4年前から批判を受けてきた御仁(ごじん)である。政府もさすがに危機感を覚えたか総務相は先週末、発言への謝罪と撤回を指示した。だが、そんな人物を政務官に就けたのがそもそも妥当だったか。判断はまたも遅きに失したように見える」と、岸田文雄首相の姿勢に疑問符を投げかけている。
コスプレ発言の罪深さ
「自民党の杉田水脈総務政務官がかつて、アイヌ民族を侮辱する内容をブログに投稿していたことが分かった」で始まる北海道新聞(12月2日付)の社説は、首相が掲げる「『多様性の尊重』とは、まったく相いれない」として、政務官としてだけでなく、国会議員としての資質にも疑問を呈している。加えて、「数々の問題発言を知りながら、起用した首相の人権感覚そのものが問われかねない」と手厳しい。
さらに、落選中のこととはいえ、このコスプレ投稿が「アイヌ民族の歴史と文化への理解を欠いている」とするとともに、アイヌ民族を法律で先住民族と位置づけ、差別を禁じたアイヌ施策推進法(アイヌ新法、2019年制定)の趣旨を逸脱しており、「当時の考えを改めていないのであれば、政府や立法府の一員が自ら定めた法律をないがしろにしているに等しい」と指弾する。
問われる政党の姿勢
「上司である松本剛明総務相に指示されて、ようやく、渋々の方向転換である」で始まるのは信濃毎日新聞(12月3日付)の社説。杉田氏が性的少数者やアイヌを巡る過去の表現について、国会の委員会審議で謝罪し撤回したことを紹介したうえで、「謝罪と撤回は当然として、その先が大事になる。差別発言が許容されてきた土壌にも、目を凝らさなくてはいけない」とする。
杉田氏の言動を「まともに取り上げるのがはばかられるような誹謗(ひぼう)中傷の類いだ」と斬り捨て、返す刀で「それなのに党内でとがめられるどころか、評価されてきたふしさえある。昨年の衆院選でも杉田氏は党の比例代表名簿の当選圏内に置かれ、再選を果たしている」と、所属政党の姿勢に疑問を呈し、「性的少数者の権利保障やジェンダー平等に後ろ向きな保守派を中心に、党内で一定の共感を得ているのではないか。だとすれば問題の根は深い」と追及の手を緩めない。
「多様性の尊重という岸田内閣の方針の逆を行っている」ことに加え、全体の奉仕者であるべき国会議員、さらには「高い人権意識と広い視野が求められる」内閣の一員として、「謝罪と撤回をしたからといって、過去に発言した事実が消えるわけではない。岸田首相の任命責任は重い」とする。
「女性の経済的自立」という甘言には要注意
山際大志郎前経済再生相、葉梨康弘前法相、寺田稔総務相の更迭的辞任劇だけでも任命責任が問われるのに、杉田問題でも任命責任が問われている岸田首相は、12月3日に都内で開催された、ジェンダー平等への課題や女性活躍の取り組みを議論する政府のシンポジウム「国際女性会議WAW!」の開会式で、「女性の経済的自立は(政権が掲げる)『新しい資本主義』の中核だ」と述べ、すべての分野で女性の視点をとり入れた政策づくりを進める考えを強調した。
ところが、世界経済フォーラム(WEF)が2022年7月に公表した2022年版「ジェンダーギャップ報告書」において、男女格差を測るジェンダーギャップ指数(「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す)を見ると、日本の総合スコアは0.650、順位は146か国中116位(前回は156か国中120位)。前回と比べて、スコア、順位ともにほぼ横ばい。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となっている。
何のためらいも無く、杉田氏の総務政務官任用を「適材適所」と言ってのける人が発する「女性の経済的自立」という甘言には要注意。なぜなら、いつでもクビが切れる、安価で従順な、使い勝手の良い労働力として、女性をかり出すための方便としか思えないからだ。
「農業女子」という言葉が死語となる未来
山形新聞(12月1日付)の社説は、山形県において農林業の担い手の育成・確保が順調に進んでいることを「最近の明るい材料の一つ」として伝えている。
2022年5月末までの1年間に、同県内で新たに農業に就いた人(新規就農者)は前年より増えて358人。1985年の調査開始以降、最多を更新し、7年連続で東北トップ。「新規就農には農機具の準備など初期投資の負担が障壁になりやすいが、県はそれぞれの事情に合わせたオーダーメード型の支援などを行っている。そうした側面は背景にあろう」と分析する。
さらに注目すべきは、女性の新規就農者数が21年度目標60人に対して94人に上っていることだ。これについても「各種の行政支援に加え、農業法人の増加に伴い女性の働く場が増え労働環境が改善されつつあることも一因に挙げられる」と分析し、「担い手人材の育成・確保に関するこうした流れを拡大・定着させたい」としている。
「農水省の『農業女子プロジェクト』が10年目に入った」で始まる日本農業新聞(12月3日付)は、「農業を活性化するには、従来にない発想や知恵が欠かせない。そのためには性差や年齢に偏りがない多様な担い手が活躍できる環境を整えることが重要だ。いずれ『農業女子』という言葉がなくなり、誰もが『個』として輝くこと。そんな未来を目指そう」と、格調高く締めている。
農業に関わる一人ひとりが、懸命かつ賢明に自らの個性を磨きあげていく先に、そんな未来が待っている。
「地方の眼力」なめんなよ
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