【浅野純次・読書の楽しみ】第81回2022年12月24日
◎阮 蔚『世界食料危機』(日経プレミアシリーズ、990円)
この本を買い求めたのは本のタイトルのせいもありますが、手に取って目次を追ってみたら面白そうな章が並んでいたことが決め手になりました。
というわけで各章の文言をまずご紹介しましょうか。①侵略された「世界のパンかご」②食肉の消費拡大が飢餓を生む③地球温暖化がもたらすもう一つの危機④食料か、燃料か⑤飢餓を招く大国の論理⑥化学肥料の争奪⑦日本の食料安全保障。
いかがですか、読んでみようと思った章はいくつありましたか。私ですか? どれも甲乙つけがたく思いながら読み通しました。
どの章もホットなテーマですけれど、③では農業が加害者でも被害者でもあること、④ではトウモロコシや大豆などバイオ燃料の原料にもなる穀物で食料供給との奪い合いが始まっていること、⑤では欧米の利己的なアフリカ向け穀物供給が農の自立を損なっていること、などが分析され読み応えがあります。
個人的に面白かったのは中国の豚肉需給の話でしたが、中国市場はほんとに目が離せません。そして日本の食料安保ではパナマ運河の重要性の指摘とトウモロコシ、大豆、小麦の自給率向上が可能だとする提言に啓発されました。なお著者は農中総研の研究員です。
◎小宮京『語られざる占領下日本』(NHK出版、1760円)
昭和20年夏から7年近くも日本の主権が奪われていたことは忘れてはならない事実です。本書は日本の政治にGHQがいかに介入し、政治が翻弄され、一方で政治家がGHQをどう利用したかについても描いています。占領軍の真意が外からわかりにくい以上、本部に出入りした政治家がもっともらしい話をでっちあげ流布させることは容易でした。
例えば吉田茂は得意の英語力で通訳なしで話を進めたおかげで、有望だった山崎猛首班の流れを潰すことに成功します。あるいはバルカン政治家として異名をとった三木武夫の存在感もその点と無関係ではないことが明らかにされます。
膨大な資料や証言から生まれた本書の戦後史の深層は従来の通説を打ち破るものです。とくに田中角栄がのし上がっていった術策ぶりが明らかにされるのは貴重です。占領軍など二度とごめんですが、あの時代に政治家たちがどう策動したかを知ることは重要なことです。第一級の史料であり、かつ興味津々の読み物でもあります。
◎井上孝夫 『その日本語、ヨロシイですか?』(草思社文庫、990円)
著者は新潮社の元校閲部長です。校閲とは、誤字脱字を防ぎ、文字でも内容でも正しく表記されているかをチェックする仕事です。あらゆることに博識でないと務まりません。
正しい日本語といっても、言うは易く実現するのは大変です。似たような誤字のタネは尽きませんし、年月だとか人名だとか勘違いからの間違いはいくらでも起こりえます。
「余生を振り返る」「欠かさざるをえない手段」「申し分けない」「東条英樹首相」。間違いを探してください。本文からの出題ですが、余生はこれから先の話、振り返るならここまでの人生か半生でしょう。以下、欠くべからざる、申し訳、英機です。
ルビだとか、旧仮名だとか、細かい話が多いきらいはありますが、言葉が好きな人は楽しめるはず。最後に本書からクイズを、もひとつ。「強豪校に名前負けすることなく善戦した」は? 名前負けは自分の名前が立派すぎるとき使います。赤字必至の文ですね。
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