今年は「現場主導」で、職員・職場の提案力を育てよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年1月10日
地方銀行で教えられた「若手チーム」の能力
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
新型コロナの感染が収まらないなかで、JAの事業展開力をこれまで以上に高める課題へのアプローチの方法、即効的な成果を生み出すために、これまでのコンサルティングの経験を前提に、「現場主導」に徹してみることを書こうと思います。
新しい年を迎えて、JAの経営者、幹部職員のみなさんに、現場を信じ、現場職員の知恵やアイデア、現場としての事業課題、組合員・利用者対応と行動目標など、いくつかのテーマで話合ってもらうことを、是非、検討し、実行していただきたい、と思います。
コンサル駆け出しの頃の話ですが、1989年の法改正で誕生した第二地方銀行のコンサルのお手伝い(カバン持ち)をした際、二つの銀行での話です。「新経営理念」の提案や「長期ビジョン案の策定」「支店機能と地域戦略」などのテーマで、30歳代前半の行員チーム(半数が支店勤務)が主導するコンサルのケースです。
行員チームとの共同作業は9か月でしたが、チームの課題意識の高さ、発想力の豊かさ、アイデアが湧き出るユニークな会議、詳細な分析能力など、行動力の高さとともに驚きでの連続で、学びが多かったケースでした。
それ以降の信用金庫や地方の行政組織、小売チェーンなどのコンサルに関わりましたが、若手スタッフによるチーム活動の例はなく、ほとんど会議出席者は、勤続20年以上の管理職でした。
JAも若手職員チームの話は聞き流され、中長期計画の策定や農業振興戦略、施設の再編整備計画などのコンサルでは、私どもが作成した分厚い調査報告書とともに、計画の大綱案、優先課題などの提案書を付して契約満了というケースが続きました。
若手チーム職員は、計画策定後、実践の先頭に立つ
1998年、関西のJAとのコンサル契約の際に、30代前半の職員チームによる調査、分析、計画案づくりの提案に、組合長さんは条件付きで了解してくれました。条件とは、JAの事業・経営論、マーケティング、統計・データ分析など、コンサルの入り口と全体像が理解できる研修を行うことでした。
この頃は、JA全中の経営マスターコースのサポートや中堅職員ビジネス能力開発研修を行っていましたので、6か月の短期集中型の研修プログラムと全支店の実態調査などを組み合わせた研修を実施。短い時間の中で、集中的な調査、検討、議論ができ、JAも地方銀行と遜色ない力のある職員がいることを認識しました。しかも、メンバーの半数以上が支店や事業所の現場職員でした。計画策定で真摯に向き合い、考え抜いた方針は、組織決定後、実践の場面ではリーダーとして先頭に立ち、取り組み、計画を進行させます。余談ですが、この時の若手メンバーのなかには、のちに専務、常務に就任されています。
40年近いコンサルを通じて、JA職員の印象は、責任感の強さ、勤勉さ、愛他心(利他心)だと思っています(そのバランス)。これは、活かすべき良さであり、強みです。一方で、克己心からか自制心が働き、態度は素直で、人に逆らわない、おとなしい性格の職員が多いのもJAの特徴です。そこで、この一面を刺激する研修が必要だと考え、工夫しました。
研修やチーム活動では、JAの組織・事業特性を強調するビジネスを説明し、職員のポジティブさと自発性を育むことを優先します。自身が働くJAという職場が、民間企業に比べて、いかに価値ある使命を持つ事業体か、しかもビジネス上、優位性のある特性を数多く持っていることの理解を重視しました。
さらに、オリジナルなビジネス論とコンサル経験のノウハウ中心の研修と、関連するビジネス書6冊の読書とレポート作成をお願いします。JA職員は本嫌いが多いという人もいますが、薦める本はきっちり読みます。最初はぎこちない読者レポートも、3冊目からガラッと内容が変化します。そして、ビジネス本好きの職員が増えていきます。
JA職員の遠慮深さ、自制する意識よりも、自分から思いを表現したくなる、それを文章に書くことが、自然体でできるようになることを目的にし、それができるようになるから不思議です。とくに、支店や事業所などの現場経験の長い職員ほど、アイデアは豊富で、提案数も多いのです。
現場職員の教育の師、学びの友は、組合員です!
現場職員がアイデア豊富で、具体的な提案が多い理由は、組合員・利用者との多様な接点で考え、苦労を重ねてきているからです。日々の現場職員の教育担当の先生であり、相互の学びの友は、組合員・利用者なのです。ただ、発言や提案の場、機会が与えられていないのです。
たとえば、23年前のJAでのコンサルケース。若手チームと策定した「支店の再編計画案」を経営者や幹部職員の前で私が概要説明をし、チームメンバーが再編ケースごとに、説明をします。その後、理事会や役員懇談会にもチーム全員が出席し、説明し、理事のみなさんと丁々発止の議論をします。メンバーは、若造であることを自認していますので、聞く耳をしっかり持っていますから、論争にはなりません。理解しようと心がけますから、祖父や父のような理事の話の何が重要かをつかみます。理事会での「支店再編計画」の検討・決議が早かった記憶があります。
常勤役員のみなさんからは、「若手職員が頼もしく思った」、「予想を超える職員の力を感じた」といった言葉をいただきました。このJAでのコンサル以降、若手、中堅職員のビジネス能力開発研修とプロジェクトチームの活動を併進するJAのコンサルが私どもの定番のスタイルになりました。
JAはトップダウンで、ほとんどの物事を決定します。でも、その前に、どんな方法でも良いので、現場主導での目標づくりや課題検討を行い、それらを集合・分類・活用するプロセスを進めてほしいと思います。
JA職員は「力」があります。思いを表現する経験を重ね、機会を増やしてほしいです。今年こそ、職員の力を、信じてあげてください。
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