統一地方選の意味【小松泰信・地方の眼力】2023年1月11日
2023年度を初年とする5カ年の総合戦略である「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が、2022年12月23日に閣議決定された。これは岸田政権における看板政策のひとつで、地域活性化策の柱に位置付けられている。
期待されていない「デジタル田園都市国家構想」
ところが、東京新聞(2023年1月3日付)は、日本世論調査会が2022年11月8日から12月19日までに行った、今年4月に行われる統一地方選に関する全国郵送世論調査(有効回答数1,815)から、この国家構想が多くの国民に期待されていないことを伝えている。
「デジタル田園都市国家構想」が地域活性化に結びつくと期待しているかを問われて、「期待する」5%、「どちらかといえば期待する」31%、「どちらかといえば期待しない」41%、「期待しない」21%。大別すれば、「期待する」36%、「期待しない」62%と、期待薄という心情がありありと出ている。
「国民から見て、目指す国家像が分かりにくいのではないか。まさに木に竹を接ぐような名称の通りである」で始まる西日本新聞(1月10日付)の社説は、「国家構想という割には全体を貫く理念が伝わってこない。端的に言えば、地方創生の焼き直しである」と正鵠(せいこく)を射る。
「リモートワークが増え、地方移住にプラスの効果がある」としても、「進学や就職で若年層が東京圏へ移動する流れは変わらない」、また「結婚や子育ての現状も、今回の総合戦略で変えられる範囲は一部に過ぎない」と冷静に分析し、「デジタルの力で解決できると説くのはかなり無理がある」と結論付ける。
政府が、地方創生の総合戦略を改め、自治体にも地方版総合戦略の策定を促すことから、「各自治体は、はかばかしい成果を上げられなかった地方創生の反省を踏まえ、総合戦略を検討すべきだ」とする。加えて、「自治体の政策の起点は住民の暮らしであり、政府の方針ではない」とクギを刺す。
東京新聞(1月10日付)の社説も、「国が利便性を押し付けるのではなく、都市部の人々が移住したいと思えるよう地域の魅力を引き出す政策こそが必要ではないか」として、「単に東京と地方とをデジタルで結べば済むという話ではない。政府はいま一度自治体の声に誠実に耳を傾け、地域の実情に応じて計画を練り直すべきではないか」と苦言を呈する。
「地方創生や東京一極集中是正」は争点にならないのか
地方創生や東京一極集中是正は、国土の保全や均衡ある発展の観点から極めて重要な課題である。しかし、国民の関心が薄いことも同世論調査が教えている。
4月の統一地方選への関心について、「大いに関心がある」14%、「ある程度関心がある」46%、「あまり関心がない」33%、「全く関心がない」7%。大別すれば、「関心あり」60%、「関心なし」40%ということで、地方選への関心はある。問題は争点である。
統一地方選の争点にするべき課題(12項目のうち2つまで回答可)で、最も多いのが「景気や物価、雇用」63%。これに「社会保障(医療や介護など)」33%、「教育や子育て支援」20%が続いている。「地方創生や東京一極集中是正」はわずか5%で9番目。地方の基幹産業ともいえる「農林水産業」に至っては3%しかなく12番目。
もちろん現下の社会経済情勢で、多くの人々の家計が圧迫され、社会保障や、教育や子育てなどに不安をかかえていることを反映したものであろう。だとしてもこの関心の低さは問題といえよう。地方の住民や自治体が当事者として物申さなければ、地方の凋落に歯止めをかけることは難しい。
「住民参加と公開」が議会改革の要諦
「議会不要論を唱えたり、嘆いたりするばかりでは何も変わらない。議員は住民が税金を出し合い雇っている。議会の危機は、主権者である住民の問題でもある」として、統一地方選を「議会に目を向けるきっかけにしよう。そこから『私たちの議会』を私たちの手で使いこなす機運を高めたい」と訴えるのは西日本新聞(1月3日付)の社説。
高校生から通学環境の改善に関する請願を受けた長野県松本市議会が、生徒を委員会に招き、質疑応答を重ねて採択したことを紹介し、「こうした経験は主権者意識を育む。議会にとっても若い世代とのやりとりは刺激になったはずだ」として、「住民参加と公開」を議会改革の要諦にあげる。
そして「新型コロナ禍や物価高で地域の暮らしが傷んでいる今こそ、議会の『聞く力』の発揮しどころだ。地方議会が本来の機能を果たす姿は『私たちの地域は私たちで治める』という言葉に象徴される住民自治の実践そのものだ」とするとともに、わが国に限らず民主主義が危機に直面しているという時代だからこそ、「議会を活用した住民自治は足元から民主主義を強くする意義を帯びる」と、格調高く締める。
問われるあなたの眼力
冒頭から取り上げている世論調査は、最初に「地方政治を含めた、今の日本の政治」について問うている。
結果は、「満足している」1%、「どちらかといえば満足している」17%、「どちらかといえば満足していない」47%、「満足していない」35%。大別すれば、「満足」18%、「不満足」82%と、極めて多くの人が不満の意を表明している。
民主主義国家において、この不満を解消する手段のひとつが、選挙であることはいうまでもない。
不満を解消したければ、この手段を行使するしかない。行使したからといって、事態が即座に好転する保証はない。しかし、行使しなければ、事態は確実に悪化する。
同世論調査では、統一地方選の投票時に候補者と旧統一協会の関係を考慮するかを問うている。
結果は、「大いに考慮する」41%、「ある程度考慮する」40%、「あまり考慮しない」14%、「全く考慮しない」3%。大別すれば、「考慮する」81%、「考慮しない」17%。
「考慮する」とした理由について、最も多いのが「旧統一協会が政治に影響を与えるのを回避したい」51%、これに「関係ある候補者への投票は旧統一協会の容認だから」28%が続いている。
これを、「当然の結果」と安心してはいけない。われわれの想像以上に、多くの地方議会は、広く、そして深く汚染されている。
今回の統一地方選ほど、有権者の眼力が問われる選挙はない。まさにこう唱えつつ、清き一票を投じよう。
「地方の眼力」なめんなよ
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