(317)ブラジル農業の変化とその顧客たち【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年1月27日
少し古い話だが昨年9月、米国農務省の機関紙「Amber Waves」に興味深い記事が掲載された。一言で言えば、現在のブラジルを農業と農産物貿易の観点からどう表現するか、である。要点をまとめると以下のとおりとなる。
現在のブラジルは、可耕地面積で世界最大、34の農産物において世界の生産量ベスト5にランクインする世界最大の農産物純輸出国である。ブラジル農業は過去20年の間に熱帯農産物(主としてコーヒー、砂糖、かんきつ類、カカオなど)から通常の農産物(大豆、穀物、綿花)や食肉、エタノールなどへと大きく輸出品目が変化してきている。
今では、世界の農業と農産物貿易を代表する国へと成長をとげたブラジルだが、最近の燃料や各種原材料価格の高騰、内陸の輸送インフラ、港湾・保管施設、資金面での信用問題、肥料不足などが、今後の成長を脅かす可能性として考えられている。
さて、このレポートの中に興味深いグラフが出ている。ブラジルがどこの国にどのような農産物を輸出しているか、言い換えれば誰がブラジルの主要な顧客であるかだ。農産物貿易を見る場合、どうしても特定の品目に焦点を当てる傾向があるため、うっかりするとブラジルのような国を全体として俯瞰する視点が欠けがちになる。このグラフはそれを見事に補っている。
結論はこうだ。2020/21年度の実績を見る限り、国別に見れば、圧倒的に中国、次いでEU-27か国、そしてタイ、これがトップ3である。その次に来るグループがエジプト、韓国、トルコ...である。残念ながらこのグラフで見る限り、日本は「その他」のようだ。品目別に見れば、大豆が圧倒的、次いで砂糖、トウモロコシ、大豆粕、である。これらに次ぐのが家禽肉、綿花、牛肉、である。実際のグラフは公開されている。(下記注)
この年の輸出第1位はもちろん大豆の8,170万トンである。2位の砂糖は3,220万トン、3位のトウモロコシは2,750万トン、4位の大豆粕が1,710万トンである。ここまでがいわばメジャークラスであり、次の家禽肉は420万トン、綿花240万トン、牛肉230万トンと、数字の絶対量で見れば桁がひとつ少ない。但し、これを世界の家禽肉輸出の33%、牛肉輸出の25%と理解すればやや印象が変わるであろう。
それにしても大豆への特化は凄まじい。最新の1月12日のデータによれば、2022/23年度のブラジル大豆の生産量は1億5,300万トン、輸出は9,100万トンである。これに対し、中国の大豆輸入は9,600万トンである。ブラジル大豆の全量が中国に行くわけではないが、大半と考えてほぼ間違いない。世界の大豆はブラジルの9,100万トン、米国の5,400万トンが2大輸出国であり、これに次ぐのはパラグアイの580万トン、アルゼンチンの570万トンである。ここまでで1億5,650万トンだが、これは世界の大豆輸出1億6,750万トンの93%を占めている...。これが現実である。
さらに、注目しておくべきは農業生産構造の大胆な変化である。熱帯農産物の輸出から通常の農産物とエタノールを中心とした輸出へとわずか20年で大きく構造が変化している。ここで注意したいのは、「AからBへ」という表現を用いてはいるが、Aが消失した訳ではなく、実質は「Aはそのままで、さらにBを」と言う方が正確な点だ。
例えば、コーヒーの場合、世界で年間1億7,275万トンが生産されているが、ブラジルは6,260万トン(36%)を占める圧倒的1位であり、2位のヴェトナムは3,022万トンである。ただし、内容を見るとアラビカ種ではブラジルが1位(3,980万トン、2位ヴェトナムは1,260万トン)、ロブスタ種ではヴェトナムが1位(2,920万トン、ブラジルは2,280万トン)となり、ヴェトナムが大健闘している。
* *
さて、かつてのアメリカ農業をさらにバージョン・アップしたようなブラジル農業と農産物輸出だが、今後どうなるか、その展開は非常に興味深い。
(注)
(https://www.ers.usda.gov/webdocs/charts/104803/BrazilOutlook-Fig02.png?v=681.6)
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