挑戦する地方と変わるべきもの【小松泰信・地方の眼力】2023年2月1日
1月31日7時台のNHK「おはよう日本」。この日閉店する東京都渋谷区にある某百貨店のことを6分30秒も放送。ローカルニュースでおやりなさい。国民に対して知らせねばならぬ情報は山積している。

夏が来なくても心に残る尾瀬高校
「夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空」の歌い出しで親しまれているのは『夏の思い出』。
上毛新聞(1月28日付)には、坂田雅子氏(映画監督。群馬県みなかみ町在住)が、群馬県立尾瀬高校自然環境科を訪問し、そこに学ぶ生徒たちの声を紹介している。
尾瀬高校の全校生徒は現在128人で、うち自然環境科は76人。その半分が尾瀬のある沼田市以外からとのこと。
生徒たちがこの学校を選ぶ理由は、何と言っても自然が好きなこと。
「子どもの時から昆虫が大好きで、テレビでこの学校を知り、ぜひ入学したいと思った。まわりの自然の豊かさが最高」(茨城県出身のA君)。
「野鳥が好きでこの学校を選んだ。個性的な友達が多く、鳥や自然の話に共感してくれるのがうれしい」(群馬県出身のB君)。
「母親の勧めで入学した。親元を離れることに少し迷ったが、自立して掃除や洗濯をすることに喜びを感じている」(群馬県出身のC君)。
授業も少人数なので発言しやすく、地域の自然を理解し、自分で調査し、それを伝えていくことを学んでいる。
「この日話を聞いた8人は口々に、いかに素晴らしい高校生活を送っているかを教えてくれた。私は自らの、遠い昔の、あまり楽しくなかった高校時代を思い出し、心からうらやましく思った」とは坂田氏。
「3年を通して生徒を見ていると、山奥での生活を通して生徒が変わっていくのが分かる。それは学力がつくというのではなく、人間力がつき、たくましくなる。3年間の生活でとんがりがなくなり、優しくなる。これは偏差値や数字では表せない成長だ」と語るのは担当の星野教諭。
生徒たちの多くが自然や環境関係の仕事に進みたいと、将来の夢を語ってくれたことから、坂田氏は「彼らの輝く瞳に私は希望を見た。私たちの身近にある若者たちの思いに、大人も大いに学ぶことがありそうだ」と記している。
「一筆啓上賞」が示す地方の挑戦
「一筆啓上賞の"挑戦" 時代に抗う地方発の文化」という見出しの論説は福井新聞(1月30日付)。
「この賞は、街おこしの先進例として長く続いている。なぜこの賞は、毎年数万件も応募があって多くの人の支持を得ているか。なぜ人を惹きつけるのか。選考委員に理由がおわかりなら教えてほしい」とは、福井県坂井市丸岡町で1月20日に行われた「日本一短い手紙 一筆啓上賞」の入賞発表式で、選考委員に参加者から出された質問である。
選考委員のひとりである佐々木幹郎氏(詩人)は、「本名で書いて、宛先もはっきりしている。そして手書きの短い言葉、これが(一筆啓上賞が)長続きする理由です」と答えている。
論説子は、「応募数の約4分の1が県内からの作品、しかも地元坂井市を中心に小中高生からの応募が多い」ことから、「県民の支え」を長続きの理由にあげている。
旧丸岡町が1993年に始めたこの賞。当時、隣県に住んでいた当コラム、「さすが丸岡町。味なことをやるなぁ」と感心したことを思いだす。30回を数える今回の設定テーマは「挑戦(チャレンジ)」。
大賞に選ばれたのは「すやませんせいへ ちゃれんじってなんですか。ぷーるにおもいきってかおをつけたこともちゃれんじですか」(坂井市立春江東小学校1年生)。
400年ほど前に、戦国武将本多重次が息子仙千代、後の初代丸岡藩主本多成重のために送ったのが「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」。そこから「一筆啓上」の発信地として始まったこの賞が、平成の大合併を経ても継続されていることに改めて敬意を表したい。
OECDが注目する山形県の農村地域
「郷土の暮らしがどのように維持されてきたか、私たちは普段あまり意識しないかもしれない。だが今月、その営みが国際的に注目された」で始まるのは山形新聞(1月27日付)の社説。
欧米や日本など38カ国で構成する経済協力開発機構(OECD)の専門グループが、世界5カ国での調査の一環で、山形県の農村地域に関心を抱き、朝日町や酒田市、鶴岡市、鮭川村に入った。
キーワードは「農村部のイノベーション(革新)」。農村部の持続的発展を目指すイノベーションの在り方を切り口に調査に当たっており、「地域資源を活用して持続的な発展を目指す」同県の農村づくりに着目したそうだ。
ヒアリングでは、地域の活動を支えてきた元県職員の高橋信博氏が、事例に基づき「地域に創造力を生み出すには、地域住民の関心とやる気が重要」と強調。伝統の保全と地域イノベーションの関係を問われて、「地域にとって通常の風景であっても、都市部から見れば非日常であり、そこに価値が生まれる」と答えている。
本当に変わるべきは我々
山形新聞のこの社説は、最後に同紙が1月から、県内の過疎集落に記者が入り込んで、住民目線で価値を再発見し地域課題と向き合う連載企画「地域に生きる~こちら移動支局」を始めていることを伝えている。第1弾は月山北麓に位置する戸沢村角川(つのかわ)地区。70年ほど前に比べ人口が4分の1に減り、高齢化が進む中でも「講」などの伝統を大切にし、外部の若い力も取り入れている様子を伝えている。
OECDの調査が切り口とする「持続的発展を目指すイノベーション」と、この連載企画がどう結び付くのか興味深い。
先走ったことを言わせていただくと、この地区の営農と生活、そして伝統文化や厳しくも豊かな自然を残し続けるために、いかなる視点、どの程度の改善や改良が必要なのかを第一に考えるべきである。発展や成長、ましてイノベーション(革新)などを意識することも目指すことも必要ない。
取り巻く環境が激変する中で、残し続けて後世に渡すだけで十分。なぜなら、本当に変わるべきは我々だから。
「地方の眼力」なめんなよ
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