【JCA週報】協同組合理念の明確化と貫徹のために(#1/全6回)(一楽輝雄)(1978)2023年3月13日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の前身の一つである協同組合経営研究所が発行した「協同組合経営研究月報」No.292(1978年1月)に掲載された一楽輝雄理事長(当時)の「協同組合理念の明確化と貫徹のために」です。
ボリュームの関係から6回に分けて掲載いたします。途中で他の掲載を挟んだ場合はご容赦ください。
協同組合理念の明確化と貫徹のために
「協同組合理論と現代の課題」研究会のオリエンテーションから-(#1/全6回)
一楽輝雄 協同組合経営研究所理事長
1.協同組合とは何ぞや
(1)その目的と理想(#1)
(2)競争原理対協同原理(#2)
(3)相互扶助と自主独立(#3)
2.協同組合原則について
(1)加入脱退の自由(#3)
(2)民主的運営(#4)
(3)出資金の性格(#5)
(4)剰余金処分の合理化(#5)
(5)事業活動に優先する教育(学習)活動(#6)
(6)系統組織対連合組織(#6)
1.協同組合とは何ぞや
(1)その目的と理想
協同組合とは何ぞや、ということは、まず協同組合の役員および職員が自らの問題としなければならない。
この問題を解くためには、今日の社会では一般的でない特殊な考え方に依らねばならない。すなわち協同組合運動に携わる人々は、ものの考え方を他の人々とは、異にしなければならない。例を宗教の世界にとれば日本では、大多数の人々が、真の信仰心はなくても、一応は仏教徒ということになっているから、キリスト教徒は一般的ではなく特殊的な存在に過ぎない。この場合、キリスト教徒は、我々は少数派だからといって一種のひけめを感じなければならないかというとそうではなく、むしろ、キリスト教こそ真理であるのに、これに目覚めない者が異教徒であると思っているだろう。
しかるに、日本の協同組合運動における役員や職員においては、仏教徒の中にいるキリスト教徒のように自覚している者が少ない。協同組合の役員や職員であっても、協同組合人としての思想を確立していないのが大多数である。
いったいわが国においては、基本的なものの考え方ということを問題にすることが少ない。したがって協同組合運動においても、ものの考え方について論議を交わす場面が極めて乏しい。
つくづく感ぜられることは、philosophyという言葉は欧米人の間では日常用語に近く折々使われているらしいが、日本では哲学という言葉は日常用語でないばかりでなく、学問の世界でも極めて狭い分野での存在にしか過ぎないことである。
哲学などというものは、大衆には何の関係もないというのはきわだった日本の特色ではないかと思う。哲学を日常的な問題にしないということは、逆にいえば、経済の問題が常時私たちの頭を占領していて、日本の社会が経済的な動向に圧倒的に支配されていることを物語るものであって、外国からみて、エコノミックアニマルだとか、日本株式会社だとか言われることの理由である。
協同組合が、協同組合らしい存在になるためには、何よりもまず協同組合哲学、理念、基本的な考え方が、確立されなければならない。そしてこの哲学に基づいてのヴィジョンに向っての実践がつづけられねばならない。もちろんヴィジョンは簡単には実現しないから、それだけに常にヴィジョンを大切に堅持して実践を方向づけることが肝要である。
協同組合の特色は、1人1票の原則とか、出資配当の制限等々のことが法律や定款に書かれており、これらが協同組合であることの要件であることには相違ないが、それらをあたかも十分の要件であるかの如くに考えてはならない。
協同組合の看板を掲げて法律や定款を守っているから協同組合であると考えるのではなく、実質的に協同組合としての在り方を追求することこそが必要である。今日の協同組合界では、目的という言葉は時として使われるが、理想という言葉はほとんど使われていない。そして、目的とは、組合員の利益を実現することだという考え方がほとんどである。学者や評論家が協同組合を論ずる時に、よく協同組合は、組合員の利益を目的とすべきであるにかかわらず、組合自体の利益を挙げることに汲々としている、という論調で批判する。
しかしこうした批判は、協同組合は組合員の利益を目的とするものであるということを当然のことのように前提としていることが問題である。
協同組合には目的と言うよりも、むしろ理想というべきものがあるべきである。人びとが各自で自らの個人的利益を追及することを建て前とする社会ではなく、より好ましい社会を実現するという基本目標を持って、その目標に向っての活動であってこそ、協同組合は企業ではなく運動と言うことができる。
協同組合はただ組合員の利益を目的とすべきではない。組合員の利益をいっさい目的としないと言い切ることはできないが、単純に目的とすると言い切るのも大きな誤りである。協同組合の目的は、平等を前提とした社会において公正な人間関係の場を築くことであって、組合員の利益というのは、不公正からの解放によってもたらされる限りでの利益でなければならない。
(続く)
重要な記事
最新の記事
-
【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(2)子実コーンの「先駆者」 JA古川2024年3月29日
-
農業者所得増加へデジタルビジネス加速 農林中金 中期ビジョンを策定2024年3月29日
-
「子ども世代に農業勧めたい」生産者の2割 所得向上が課題 農林中金調査2024年3月29日
-
東京・大阪で組合長らが 「夢大地かもと」スイカをPR JA鹿本2024年3月29日
-
全国から1,000名を超える農業の担い手が集う 「第26回全国農業担い手サミットinさが」開催 佐賀県2024年3月29日
-
家族みんなで夏の農業体験はじめよう 食農体験イベント「土袋でデコきゅうり」開催 JA兵庫六甲2024年3月29日
-
(377)食中毒1万人は多いか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月29日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第96回2024年3月29日
-
【人事異動】全国農業会議所(4月1日付)2024年3月29日
-
品種で異なるメロンの味わいを体験 自由が丘「一果房」で29日から 青木商店2024年3月29日
-
第160回勉強会「レジリエントな植物工場運営・発展に向けて~災害からの復旧・復興事例から学ぶ」開催 植物工場研究会2024年3月29日
-
創立55周年記念 ガーデニング用 殺虫・殺菌スプレーなど発売 住友化学園芸2024年3月29日
-
「核兵器禁止条約」参加求める26万の署名 藤沢市議会が意見を採択 パルシステム神奈川2024年3月29日
-
尾鷲伝統の味「尾鷲甘夏」出荷開始 JA伊勢2024年3月29日
-
令和6年能登半島地震 被災地農家を応援 JA全農石川へ寄付 KOMPEITO2024年3月29日
-
林木育種センター九州育種場 九州育種基本区の「スギエリートツリー特性表」公表 森林総研2024年3月29日
-
農業フランチャイズのクールコネクト シードラウンドで3200万円を調達2024年3月29日
-
鳥インフル 米メイン州からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年3月29日
-
畜産施設の糞尿処理で悪臭対策 良質な堆肥化を促進 微生物製剤を開発 B・Jコーポレーション2024年3月29日
-
水田のスマート水管理で東大大学院農学生命科学研究科と共同研究開始 ほくつう2024年3月29日