農林水産省は文化庁に続け【小松泰信・地方の眼力】2023年3月29日
岸田文雄首相はウクライナ電撃訪問に際し、ゼレンスキー大統領に必勝と書かれた「しゃもじ」をお土産として渡した。必勝ならぬ失笑を買って、まさに噴飯物。世界中に、この国の文化水準を示してくれたようだ。

文化庁は最初で最後なのか
低レベルの文化水準には毒されたくない、との思いに急かされたのか、文化庁は3月27日に京都に移転した。本格稼働は5月15日の予定で、最終的には全職員の約7割の約390人が京都を拠点にするとのこと。
そもそもは、地方創生政策の目玉として、政府が2014年に打ち出した政府機関の移転の一環で、政治や行政、経済の東京一極集中に風穴をあける効果が期待されている。しかし、国会対応が難しくなることや庁舎整備費の増加などにより、東京を離れることへの官僚の抵抗が根強く、他省庁に追随する動きはないようだ。
西日本新聞(3月28日付)によれば、3月13日の参院予算委員会において、「首都機能を分散させるべきだ」と野党から問われた岸田首相は「過度な一極集中の是正へ地方の所得を引き上げ、デジタルの力も活用して地域活性化を図る」と語るのみで、省庁の移転促進には言及しなかった。
また、政府関係者が「危機管理などで問題が起きれば東京から動けない(略)。今後、他の省庁が移転するのは難しいだろう」と打ち明けたそうだ。
今回の文化庁の京都移転は、官庁移転の最初で最後となりかねない。いやいや、数年後に「やはり東京でないとね」と、出戻ることさえ十分あり得るようだ。
期待を寄せる全国紙
読売新聞(3月28日付)の社説は、「関西は国宝の5割、重要文化財の4割が集中する。特に京都は寺社や西陣織などの伝統文化が集積し、訪日外国人の人気も高い。『京都ブランド』を生かした文化振興への期待は大きい」として、「京都や関西に根付く文化的な資産を活用し、移転の効果を最大限に発揮してもらいたい」と期待を寄せる。
産経新聞(3月28日付)の主張も、「京都の国際情報発信力に期待すると同時に、従来の枠にとらわれない発想で、都倉俊一長官のいう『文化芸術立国』へ歩みを進めてもらいたい」と、エールを送る。
同庁文化審議会委員なども務める河島伸子氏(同志社大教授・文化政策論)の「本来文化は人々の生活に近いところにあるもの。霞が関から離れ、地方目線を得ることで気づきがあると期待したい」というコメントを紹介し、「京都および関西には多くの文化財があり、古社寺から茶道・華道といった伝統文化、アニメなどのサブカルチャーまでその蓄積は広く深い。文化行政の中枢を担う人々が机上から街へと目を向ければ、おのずと見えてくるものもあるだろう」とする。
ただし、「目指すのはそれが政策立案に生かされ、全国に波及するロールモデルだ」と、文化庁はもとより京都にまでも成果が求められていることを念押しする。また、デジタル田園都市国家構想を掲げる岸田政権には、「文化庁移転を機に、行政機関の地方移転を一段と進められないか。不断の検討を求めたい」と要望する。
冷めたまなざしの地方紙
「やっと具体的な成果が表れた」で始まるのは山陽新聞(3月28日付)の社説。
「岡山県も市町村からの要望に沿い当時の理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター(横浜市)など9機関の誘致を提案した」経緯を知れば、「やっと」に込めた無念さが伝わってくる。
地域活性化の新たな5カ年計画「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が2022年末に閣議決定された。そこに掲げられた「政府関係機関の地方移転の推進」に記された、「有識者からの意見などを踏まえ、23年度中に総括的な評価を行い、必要な対応を行う」とする表現に対して、「力強さに欠け、岸田政権の『本気度』は伝わってこない」と斬り捨てる。
文化庁などの移転を評価する際、「地方に移転しても機能を保持できたか」「コスト増や組織の肥大化につながらなかったか」などの効果を検証することに対しても、「さらなる移転を進めないための理由付けにされること」を危惧する。そして、「東京に中央省庁などが集中する現実がある中で、移転した機関のみの合理性や効率性を評価するのは無理がある」と、正論で攻める。
「世界でも異常な首都圏への一極集中を是正し、分散型の国土構造に変える」というそもそもの目的に立ち返り、「目先の組織の論理は排除し、まず政治が『移転ありき』で強い意志を示した上で、適切な組織形態を考えるのが筋だ」とし、「文化庁の京都移転でお茶を濁して終わるのではなく、さらなる移転を進めねばならない」と、鋭く迫っている。
西日本新聞(3月28日付)の社説も、「政府を挙げて取り組んだはずの東京一極集中の是正は、見るべき成果が上がらない。中央省庁の地方移転もかけ声倒れになっている」として、「これ以上の進展は見込めそうにない」と突き放しつつも、「政府は原点を見失ってはならない」と訴える。
そして、「東京に政治や経済の拠点機能、人口が過度に集中している社会構造を見直す」と言う当初の目的を再確認し、「地方分権によって中央省庁をスリムにし、公務員の地方分散を進めることも検討すべき」と提言する。
次は農林水産省の移転をめざせ
西日本新聞(3月29日付)の「統一地方選 私の注目点」というコーナーで、藻谷浩介氏(日本総合研究所主席研究員)は、「地方では、このままでは立ちゆかなくなるとの危機感から、既成政党や政治の主流派への不信感が出てきている」とする。
「東京の中高一貫の男子校出身者が中心を担う中央官庁は地方の現実が見えていない。教育や公共交通が典型例で、学校の統廃合や鉄道の廃線を進めれば人口は減るばかり。大都市に人を集め『地方はなくしてしまえ』と言わんばかりだ」と憤る。ところが、東京23区をはじめとする大都市の出生率は著しく低いことから、「地方から大都市に若者を送り出し続けるのは国家の自殺行為だ」と指弾し、「東京ばかりを見て『国とのパイプ』を強調する首長や地方議員が多いが、国の言うとおりにしても少子化で沈む東京よりよくなることはない」とは、頂門の一針。当コラム、藻谷氏の指摘に異議なし。
そこで、河島氏の「霞が関から離れ、地方目線を得ることで気づきがある」というコメントから、良いアイディアが湧いてきた。
農林水産省の地方移転である。霞ヶ関にいることに喜びを感じるような官僚に、現場の喜怒哀楽にフィットした政策は期待できない。地方でこそ、農政への眼力は鍛えられる。これくらいしなきゃ、農家にも地方にも明るい未来はこない。
「地方の眼力」なめんなよ
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