「卵を産まなくなったニワトリの里親になりませんか」 ローマ在住ジャーナリスト・茜ヶ久保徹郎【イタリア通信】2023年4月15日
私の家の近くの肉屋さんのショーケースの上に卵のパックが並べられており、近くに「老いた牝鶏の里親になりませんか」と書かれた小さな看板が置かれていました。
店頭のショーケースの上に置かれた卵パック
卵6個入りのパックには「幸せな牝鶏」の商標があり、一つ3,5ユーロ(約490円)、一般の卵より高いようです。
看板には「鶏は数年たつとタマゴを産まなくなります。私たちは年をとった鶏を殺しません。鶏たちは仲間と死ぬまで穏やかに暮らします。これには余分なコストが掛かるので、皆さんに援助をお願いしています」と書かれています。
そして「100ユーロ(約1万4000円)払い込んで里親になると、卵を産まなくなった鶏を死ぬまで飼育する経費となり、月に2パックの卵を10か月間届けます。併せて里親証明書を発行し、鶏に名前を付けることもできます」とありました。
3,5ユーロx20パックだと70ユーロになるので、残りの30ユーロが鶏の維持費となるようです。
イタリアでも生卵を食べる習慣があり、新鮮で美味しい卵は喜ばれます。生卵の食べ方は「生ガキ風卵」と呼ばれ、卵の黄身をスプーンに乗せて塩をかけ、レモンを絞ってそのまま飲みます。
金網に囲まれた鳥の遊び場
この卵を作っているローマ郊外の養鶏場に行ってみました。
市内から車で30分ほど、周りにポツポツと住宅が建っている丘陵地帯にある農園には金網で囲まれた1万平米の土地に小さな鳥小屋と砂場があり鳥が自由に歩き回っていました。
砂場の様子
食糧難の昭和20年、敗戦の年に小学校(当時は国民学校)1年生だった私の家では庭で鶏を飼っており、小さな鳥小屋に5羽ほどいたことを覚えています。そして鶏の世話は子供たちの仕事。餌は菜っ葉にふすまでしたが、芋虫など色々な虫を獲って食べさせ、庭を自由に歩かせていたのでとてもいい卵を沢山産んでくれました。
鳥小屋の匂いや聞こえてくる鳴き声、卵を産んだ時の鳴き声、嘴で地面を突いている鶏たちを見ると、そんな子供のころが懐かしく思い出されました。
オーナーのマウリツィオさん
オーナーのマウリツィオさんは次のように話してくれました。
「私が養鶏を始めたのは6年前です。土地は祖父の代からのもので、斜面がきつくて畑にできないので祖父や父は自家用に鶏を飼っていました。私はその鶏小屋を使って始めましたが、卵を産んで働いてくれる鶏たちに感謝し、良い環境で育て、死ぬまで大事に飼育することを考えました。餌は自然飼料。そして鶏たちは金網で囲まれた1万平米の自然の中を歩き回って草や虫などを食べています」
「金網は鳥が逃げないためよりもキツネや野犬が入れないようにするためです。雛を仕入れて20日間ほど小屋にとどめて慣れさせると、遠くに行っても夜には小屋に帰ってくるし、小屋で卵を産みます。鶏たちは鳥小屋や砂場に自由に出入りでき、自然の中で生活しています。ストレスのない鶏が産んだ卵は味が違います」
「ローマの高級レストランのシェフたちに認められ、卵を大事に扱ってくれる個人商店などとともに直接卸し、里親には直接卵を届けています。現在里親は100人ほどで、イタリアでこのような養鶏を行っているところを他には聞いたことがありません」
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