【JCA週報】一世代を経て:『レイドロー報告』再考4(イアン・マクファーソン、訳:和泉真理)(2010)2023年6月26日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、当機構の前身であるJC総研が発行したイアン・マクファーソン氏が執筆された「一世代を経て:『レイドロー報告』再考」です。
ボリュームの関係から9回に分けて掲載いたします。途中で他の掲載を挟んだ場合はご容赦ください。
一世代を経て:『レイドロー報告』再考 #4/全9回(2010)
イアン・マクファーソン(ヴィクトリア大学名誉教授)
訳:和泉真理、監修:中川雄一郎
はじめに(#1)
1.レイドロー報告考察の2つの論点
(1)世界的に異なるレイドロー報告の影響とその背景(#1)
(2)レイドロー報告の影響力の源泉
①それまでの協同組合研究の課題(#1)
②異なる世代間に橋を架けたレイドロー報告(#2)
③2つの教訓の提起(#3)
④世界的視点から物事を考察したレイドロー(#3)
⑤在来型の協同組合管理手法への疑問(#3)
⑥協同組合運動に参加する市民の能力への確信(#4)
⑦協同組合教育の重要性(#4)
2.変化するグローバル社会における協同組合の位置づけ(#5~#7)
3.レイドロー報告の最も重要な部分一第V章「将来の選択」一(#7)
おわりに(#8、#9)
1.レイドロー報告考察の2つの論点
(2)レイドロー報告の影響力の源泉
⑥協同組合運動に参加する市民の能力への確信
協同組合運動に関わってきた彼の体験もまた、コミュニティは第二次世界大戦後の窮迫とその窮迫を乗り切る機会とにどう対応し得たかについて、説得力のある考え方を彼に分け与えてくれた。
彼は、したがって、協同組合運動に積極的に参加している市民の能力が協同組合運動を活発にしてくれることを確信していた。彼は、世の中全般においても協同組合においても、狭量なイデオロギー(信念・意見・心的態度)に基づく立場や見解だと彼が見なしたものには疑ってかかることにしていた。彼は民主主義のプロセスを一たとえそのすべてに不備があっとしても一信念をもって擁護したが、しかし彼は、協同組合の世界にあっては、しっかりと管理運営されている年次総会に民主主義のプロセスが簡単に縮約されるとは考えなかった。
彼は、多くの協同組合組織であまりにしばしば目にする慣行、すなわち、劇場的あるいは儀礼的な民主主義の祝賀者ではなかったのである。
⑦協同組合教育の重要性
レイドローは、その生涯を通して、教育、とりわけ成人教育がもたらすことのできる利益の可能性について主張し続けた。
彼は、地域コミュニティが「自らの運命を切り開く」知識と集団の努力とを活かしていくための能力を強力に支えたのである。この「(地域コミュニティは)自らの運命を切り開く」というフレーズはもともとモーゼズ・コーディが広めたそれであるが、レイドローはそのフレーズを好んで使っていた。レイドローは、同じように、地域コミュニティがより一般的な利益のために連携し、結び合う必要性を信じて疑わなかった。
とはいえ、普遍的な利益をもたらすのは地域コミュニティのエンパワーメントであって、地方・地域偏重主義ではない。それ故、レイドロー報告が強調したのは、地方・地域における能動的で創造的な活動(localactivisrn)であり、また地方・地域の人たち自身による展開(self-development)であったのである。
この点で、レイドロー報告はその当時の協同組合に関する論文としては並はずれていた。何故なら、レイドロー報告は一たとえ、それらの理念や構成概念によって(協同についての)インスピレーションや部分的な指針が示されるかもしれない、とレイドローが認識していたとしても一「協同」の真髄が1世紀あるいはそれ以上も前に展開された理念や構成概念によって説明されるとは思っていないからである。
レイドロー報告は、歴史上の特定な時期に特定の地方で展開された理念や政策を単純に適用することに関心を向けるのではなく、自己実現のプロセスや能動的で創造的な活動のプロセスに関心を向けている。
彼が知識や有用な情報を取り入れようとしなくなった既存の協同組合運動を批判して、協同組合教育を蘇(よみがえ)らせるようレイドロー報告で要求したのは、そのためである。
彼はまた、「[協同組合]事業は(生産や作業の過程での)コンピュータによる自動制御(サイバネティック)時代に突入しているというのに、[協同組合]教育は依然として一種の石器時代の中でうろうろしている...」と指摘して、新しい科学技術の利用が協同組合思想の普及と発展を促すようになる、と強調してもいる。
要するに、彼は一J.S.ミルを引用し一「教育は、全人類にとって望ましいものであるが、協同組合人にとっては不可欠な活力源である」、との経験深い意見を持ち続けているのである。必要なことは、最新で最良の種類のコミュニケーションを活用してこのコンセプトを実のあるものにしていくことであるが、しかし、それは、「言うは易し」であって、多数の関係者による緩やかな協働さえも遣(や)りたがらないような運動には難しいことなのである。
***エンパワーメント(empowerment)は一般に「自己決定能力・資格」を意味する言葉である。
この「自己決定能力・資格」は、人びと一あるいは地域コミュニティ-が必要なものを入手し利用できる法的・社会的・経済的パワーを含む能力や資格をそなえること」(東郷えりか)をまた意味している。
アマルテイア・センは『人間の安全保障』(「人間の安全保障と基礎教育」)のなかで「女性の独立とエンパワーメント」についてこう述べている。
「女性の幸福(well-being)について考慮され尊重される度合いは、その女性独自の収入があるかどうか、家庭外で雇用されているか、所有する権利を認められているか、識字力が身についているか、教育を受けた者として家庭の内外で意思決定に加われるかどうかに大きく左右されるのです。実際、開発途上国でも、男性に比べて女性の方が低かった生存率の格差が急速に小さくなっているようです。女性がいっそう主体性をもつようになって、格差が解消される可能性もあります。このようなさまざまな特性(女性が収入を得る力、家庭外での経済的役割、識字力と教育、所有権など)は、一見すると互いに無関係のように思えるかもしれません。しかし、すべてに共通するのは、女性の独立とエンパワーメントを通じて、それらが女性の発言力と主体性を高める貢献をしていることです。」
(アマルティア・セン著・東郷えりか訳『人間の安全保障』集英社新書、2006年、pp.29-30.)
(続く)
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