亡き妻思い出し84歳で国道84号線を走る ローマ在住ジャーナリスト・茜ヶ久保徹郎【イタリア通信】2023年7月15日
国道84号線沿いの村「Fara San Martino」
子供のころからバイクが大好きで、17歳で免許を取り、19歳の時には日本一周。1958年当時は国道1号線、東海道も一部は舗装されていませんでした。
その後さらに熱が上がり、1960年にはバイクで世界一周を目指してインドのカルカッタから走り始め、ローマでお金が尽き、恋人もできてそのまま住み着きました。
結婚して子供ができたのを機にバイクはお預け、その後妻を亡くし、再婚しましたが、子育てと仕事でバイクどころではなく、50歳後半でやっと昔の自分に戻り、妻を後ろに乗せてのツーリングを始めました。
ギリシャを皮切りに、スペイン、ポルトガル、モロッコ、そしてスイスからドイツ、オランダからフランスと失った時間を取り返すように走り、66歳の時にニューヨークからロスアンゼルス、ルート66を通って北米大陸を横断、何とか世界一周を成し遂げた気分になりました。
その後一緒に走った妻を亡くし旅はストップ。78歳の時に66歳のルート66にちなんで私の年齢のイタリアの国道を走り始めました。
国道84号線の起点で
今年走った国道84号線はローマから190キロほど南東の山中、スキー場があるRoccaraso(ロッカラーゾ)が始点、海岸のSan Vito Chietino(サン・ヴィート・キエティーノ)までの90キロです。
この道は自然豊かなマイエッラ国立公園の中の見晴らしのいい高原やくねくねとした森の中の道、そして城壁に囲まれた古い町と、変化に富んだ景色を楽しんでいるうちにアドリア海岸のSan Vito Chietinoの町に入ります。日本でいえば国道17号線、三国街道のスキー場のある湯沢から長岡に行く感じで、前橋生まれの私には懐かしく感じられる道でした。
中頃の谷間の町 Fara San Martino (ファーラ・サン・マルティーノ)には「緑の水」と呼ばれている水源があります。この地区はアドリア海に近く、バルカン半島からの湿った空気が雨をもたらし、大量の湧き水に恵まれています。
「緑の水」の水源
その水源の近くにパスタの工場がいくつかありました。
美味しいパスタを作るには「良い麦、良い水、良い空気、そして腕のいい職人(MASTRO)」が必要条件。
昔からのパスタの味と伝統を守るために職人仕事を大切にしている 家族経営のPastificio Artigiano Cav.Giuseppe Cocco社は、20世紀初めにMASTROのDomenico Cocco(ドメニコ・コッコ)が設立、1944年に息子のGiuseppe(ジュゼッペ)が継ぎ、現在はその子供、孫が受け継いで味と質を守っています。
トラブッコの様子
終点は海岸の町 San Vito Chietino、海水浴のリゾート地。この地にはトラブッコと呼ばれる古くから続く漁があります。
トラブッコは魚を捕るために海岸から少し離れた浅瀬や岩場に建てられた木製の構造物。突端が広くなっておりそこから長いアームが伸び、先端には魚をとるための網が取り付けられています。
トラブッコ漁は潮の満ち引きや風の状態で魚の動きが変わるのを利用してトラブッコの上で魚が来るのを待ち、アームを下ろして網で魚をとらえます。
この漁はフェニキアから伝えられたと言われており、18世紀には記録が残されています。海が荒れても船を出さずに海岸から漁ができる利点もあります。
現在は観光化して、上にレストランが出来て美味しい魚料理が食べられます。
国道84号線の終点にて
バイクのツーリングは車のようにラジオや音楽を聴いたり、同乗者とおしゃべりしながら走ることはできません。一人で寒さ暑さ、風や雨の匂いを感じ、昔の旅人のように天気を心配しながら走ります。走っていると色々な思い出が頭に浮かびます。私にとって年齢と同じナンバーの道を走ることは妻との旅を思い出す「センチメンタルジャーニー」でもあります。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(171)食料・農業・農村基本計画(13)輸出国から我が国への輸送の状況2025年12月6日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(88)ジチオカーバメート(求電子剤)【防除学習帖】第327回2025年12月6日 -
農薬の正しい使い方(61)変温動物の防除法と上手な農薬の使い方【今さら聞けない営農情報】第327回2025年12月6日 -
スーパーの米価 前週から23円上昇し5kg4335円 過去最高値を更新2025年12月5日 -
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(2) 【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】『タコ市理論』は経済政策使命の決定的違反行為だ 積極財政で弱者犠牲に2025年12月5日 -
食を日本の稼ぎの柱に 農水省が戦略本部を設置2025年12月5日 -
JAの販売品販売高7.7%増加 2024年度総合JA決算概況2025年12月5日 -
ポテトチップからも残留農薬 輸入米に続き検出 国会で追及2025年12月5日 -
生産者補給金 再生産と将来投資が可能な単価水準を JAグループ畜酪要請2025年12月5日 -
第3回「食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会」開催 農水省2025年12月5日 -
新感覚&新食感スイーツ「長崎カステリーヌ」農水省「FOODSHIFTセレクション」でW入賞2025年12月5日 -
(464)「ローカル」・「ローカリティ」・「テロワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月5日 -
【スマート農業の風】(20)スマート農業を活用したJAのデジタル管理2025年12月5日 -
「もっともっとノウフク2025」応援フェア 農福連携食材を日替わりで提供 JA共済連2025年12月5日 -
若手職員が"将来のあるべき姿"を検討、経営層と意見交換 JA共済連2025年12月5日 -
IT資産の処分業務支援サービス「CIRCULIT」開始 JA三井リースアセット2025年12月5日 -
「KSAS Marketplace」に人材インフラ企業「YUIME」の特定技能人材派遣サービスのコンテンツを掲載 クボタ2025年12月5日 -
剪定界の第一人者マルコ・シモニット氏が来日「第5回JVAシンポジウム特別講演」開催2025年12月5日 -
野菜との出会いや季節の移ろいを楽しむ「食生活に寄り添うアプリ」リリース 坂ノ途中2025年12月5日


































