日本酪農消滅の危機【森島 賢・正義派の農政論】2023年7月18日
日本の酪農が、危機的状態にある。資材価格の高騰、乳価の低迷によって、経営が立ち行かない状態である。
事態は深刻である。このままでは日本の酪農は消滅する、という危機に直面している。存続の危機である。
酪農が消滅すれば。副産物であるオス子牛をとおして肉牛部門に、飼料である稲藁をとおして稲作部門に、さらに肥料としての糞尿をとおしてすべての農業部門に、深刻な影響を及ぼす。つまり、酪農危機は全ての農業部門の危機である。
もちろん、加工部門、流通部門におよぼす影響も大きい。
そして、これは食糧危機の主要部分を揺さぶる、全国民にとっての危機である。
上の図は、これまでの63年間の酪農戸数の減少の状態である。危機の連続だった、とみることができるだろう。これまでは、経営の大規模化によって凌いできた。その陰には、離農という苦難の歴史があった。それにもかかわらず、戸数の減少は止められなかった。
そして、60年前には40万戸以上あった酪農家は、いまは、1万3300戸にまで減った。30分の1にまで減ってしまった。
図の右上の部分は、2000年以後について、縦の戸数目盛りを10倍にして詳しく見たものである。最近も減少の勢いが衰えていない。今後も、酪農危機のなかで、ゼロにかぎりなく近づく、という状況である。
◇
このように、いま日本の酪農は消滅の危機のさ中にある。こんどの冬は、日本の酪農家の41%を占める北海道の場合、またも離農の嵐が吹き荒ぶだろう、といわれている。北海道は、通常の作目転換ではなく、挙家離村である。農村共同体の崩壊であり、農村の消滅である。
しかし、政治に危機感はない。いったい、政治は何をしているのか。
◇
政治家は選挙のとき、1戸の酪農家の票数は1票、せいぜい2票しかない、と考えているのだろう。全国で合計すると、票数は以前の30分の1にまで減った、と考えているのだろう。
たしかに、その通りである。だからといって、軽視していいことではない。酪農家も農家の仲間である。農家は傍観していていいのか。他人事ではない。明日は我が身かもしれない。
◇
歴史的にみるとき、これは悪名高い「囲い込み運動」である。つまり、農業者を経済的強制という見えない力で、暴力的に情け容赦なく農村から町へ追い出して、町の労働市場を弛緩させ、低賃金労働者を溢れさせ、そうして搾取を強める資本側の腹黒い陰謀である。
それに加えて、安価な輸入食糧を町に溢れさせ、食糧価格を下げることで、労働力の再生産費を下げ、そうして賃金を下げることを資本側は狙っている。つまり、これは労働者全体の問題でもある。
それに加えて、食糧自給率が下がる。つまり、これは国民全体の問題である。だが、政治家はそのことは念頭にない。いま、世界中で食糧安保が叫ばれる中、恥しらずで売国的といわれても、抗弁できないだろう。
◇
ここに思いを致し、酪農家だけでなく全ての農業者が一丸となって、労働者、国民とともに政治と対峙しなければならない。そこにこそ畜産危機を乗り切る本道がある。酪農家が最前線に立って、全ての農業者が連帯することに、農業側がこの酪農危機を克服する本道がある。それこそが、今を生きる全ての農業者の歴史的使命である。そして、これに応える政治家こそが、全ての農業者から支持される真の農林族の政治家である。
いまこそ、農林族よ立て。酪農危機に立ち向かう最前線に立て。そして、1千万人を超える農協組合員の、熱烈な支持を集めよ。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(121) -改正食料・農業・農村基本法(7)-2024年12月7日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(38) 【防除学習帖】第277回2024年12月7日
-
農薬の正しい使い方(11)【今さら聞けない営農情報】第277回2024年12月7日
-
水田活用の直接支払交付金 十分な予算を 自民議員が農相に要請2024年12月6日
-
(412)寿司とピザ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月6日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】議論の前提が間違っている~人口問題、農業就業者問題2024年12月6日
-
JA共済連が「隠レア野菜プロジェクト」に取り組む理由 食品ロス削減で地域貢献へ2024年12月6日
-
国産飼料増強 耕畜連携を農業モデルに 企画部会で議論2024年12月6日
-
農林中金がグリーンボンドに300百万豪ドル投資 生物多様化の保全啓発に寄与2024年12月6日
-
鳥インフル 米オレゴン州、テネシー州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月6日
-
JAみっかび「三ヶ日みかん」7日放送のTBS『王様のブランチ』に登場2024年12月6日
-
家畜へ感謝 獣魂祭で祈り JA鶴岡2024年12月6日
-
「秋田県産あきたこまち40周年記念フェア」仙台と銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年12月6日
-
野菜の総括 2024年は野菜にとって苦難の年 タキイ種苗2024年12月6日
-
米を選ぶ理由は「おいしいから」63.1%「お米についてのアンケート調査」日本生協連2024年12月6日
-
熊本県産デコポンPR 東京・大阪で初売りセレモニー JA熊本果実連2024年12月6日
-
「奈良のいちごフェア」9日から開催 ホテル日航奈良2024年12月6日
-
雑穀の専門家を育成「第8回 雑穀アドバイザー講座」開催 日本雑穀協会2024年12月6日
-
埼玉に「コメリハード&グリーン秩父永田店」12月21日に新規開店2024年12月6日
-
アイリスオーヤマ 宮城県と包括連携協定締結 パックごはん輸出で県産米販路拡大へ2024年12月6日