【やさしい経済の話】高齢化社会と少子化の行方(下)経済的な婚姻控えも 浅野純次・元東洋経済新報社社長2023年7月28日
経済に詳しい元東洋経済新報社社長で石橋湛山記念財団評議員などを務める浅野純次氏が解説する「やさしい経済の話」。今回は日本の将来を左右しかねない「高齢化社会と少子化の行方」について問答形式で解説してもらった。
大地 ごちそうさま。おいしいコーヒーだった。では再開して、少子化の話に行きますか。
里花 知り合いでも子どもが一人という家が多くなったわ。結婚しない人も珍しくないし。さりげなく聞くと、なかなか機会がないという人と、一人のほうが気が楽だという人が多いわ。
大地 日本では結婚して出産というケースが普通だから、少子化対策としてはまず結婚に踏み切れる社会にすることが大事だね。もちろんフランスなどのように婚外子が増えていくことも一つの方向ではあるけれども。それとシングルマザーに対する支援策ももっと考えていく必要があると思うね。
里花 以前、新聞に母子世帯は120万くらいあるって出ていたけど、一人親で仕事と育児を両立させるってとんでもなく大変なはずよ。
大地 いろいろ助成はあるけどとても十分とは言えないからね。シングルマザーは既婚と未婚とあるわけだけれど、今後も増えていきそうな気がする。離婚率も上昇傾向だからシングルマザーはまだまだ増えそうだ。長期的な視点で今から政策をしっかり進めないといけないね。
里花 未婚増とか晩婚化が少子化の大きな原因であるとして、生活困難がやはり響いていることは確かなんでしょう?
大地 いろんな調査からはそう見えるね。今の勤務と将来の見通し、両面から結婚を先延ばししたり、あきらめたりという例が多い。前にも話したと思うけれど、非正規雇用の拡大は特に問題だね。男女とも非正規ではとても大変だけれど、片一方が非正規というだけでも出産、育児は至難だろう。企業としては非正規雇用で人件費が減り収益的には結構な話だろうが、少子化で雇用もままならぬことになるとすると、まさに合成の誤謬(ごびゅう)、ブーメランのごとしだ。
里花 国としても少子化対策はやってるはずよね。いつだったか岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」とか何とか言っているのをテレビで見た記憶があるわ。
大地 この間の国会では与野党で論戦になったからね。児童手当の給付が最大の焦点で、与党からもあれをやれ、これを付け加えろ、と大騒ぎだった。今回も財源をどうするというところでは議論は迷走していたけど。
里花 児童手当がほんとに少子化対策になるわけ?
大地 そこが意見の分かれるところさ。児童手当が結婚を前に悩んでいる人たちの背中を押す効果がないとは言わないけど、ちょっと焦点がずれている気がするなあ。手当の所得制限もやめるとか、どんどんばらまき政策の様相を呈してきたように思うよ。
里花 支持率狙いの下心政策ってわけ?
大地 うまいこと言うね。だいたい「異次元の少子化対策」なんて簡単に言うけど、政治家が「異次元の」などと言い出したら用心しないといけない。そうそう日銀の黒田東彦前総裁も「異次元」を乱発していたじゃないか。
里花 少子化対策だといって、結婚祝い金制度とか出産一時金なんて始まるんじゃないでしょうね。
大地 マイナポイントなら2万円でも飛びついた人は多かったみたいだけど、結婚、出産となるとケタ違い以上の支援がなければ事態は改善するとは思えないね。いちばん大事なのはばらまきではないということ。生活が安定せずおカネがままならない若い人たちが安心して結婚、出産に向かえるには、財政をピンポイントで重点的に使わないといけない。今みたいな総花的なばらまきでは無駄遣いで終わるしかないと思うよ。
里花 まさに戦略的な施策が待たれるということね。
大地 なんだか新聞の社説みたいだ(笑)。とにかく少子化対策は30年以上、無為に過ごしてしまったからね。もうほとんど手遅れなのかもしれないけど、ほんとの危機感をもって知恵と強い意志を結集してがんばってみるしかない。
里花 働き方を変えていくことも大事なんじゃないの?
大地 そうそう。深夜残業が続き有給休暇も不消化の職場では少子化に拍車がかかるわけだからね。そういう会社には人材が集まらないようになってほしいものだ。働き方改革なんて掛け声ばかりでは困る。それと教育の重要性も忘れてはいけない。そうそう、出生率が1・36ってことだって、アジアでは香港、シンガポール、韓国、台湾はみな日本より下で、台湾なんか1・09なんだ。でもどこも活気のある国、地域だからね。出生率一つとっても考えるべきことは多いよ。この点、機会があれば改めて説明しよう。
里花 移民の問題も大事ね。
大地 最初に話に出た推計人口では、移民が増えるだけでなく、その人たちの出産率が高いという前提だった。これも実は大きな問題なんだ。移民だけでもいろいろと話したいところだけど、そろそろ失礼しないと。やはりこの問題は時間切れになってしまった。近いうちまた来てまた続きをやりますかね。
里花 おいしいコーヒーとお菓子を用意しておくわ。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日