【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農家の苦境を増幅する猛暑~政策の出番2023年8月31日
夏場は比較的過ごしやすいはずの北海道も含め、日本中が猛暑で悲鳴を上げている。農作物への被害も顕著になりつつあり、肥料、飼料、燃料などの生産資材の高騰で赤字に苦しむ農家に、猛暑による減産が、さらに「追い討ち」をかけている。
今年は「異常」な猛暑だと気象関係者が指摘している。特に、日本の最大の食料基地で、「日本の台所」とも言える北海道の猛暑の影響が懸念される。さらに、「異常」の頻度が高まり、何十年に一度が数年に一度と「通常」化しつつあることが懸念を増幅させている。
なにせ、北海道の食料自給率は223%で、東京の自給率は四捨五入すると0% (0.49%)である。北海道の国内シェアは、小麦65%、大豆41%、じゃがいも80%、たまねぎ62%、かぼちゃ41%、スイートコーン38%、牛乳56% などと極めて大きい。
この意味するところは重大である。ウクライナ紛争、中国の大量買い付け、世界的な異常気象の頻発(通常気象化)による不作などで、輸出規制も起こり、海外からいつでも安く食料を調達できることが難しくなってきている。そういう中で、国内の食料の多くを依存している北海道の生産が減少したら、日本の消費者、特に、自給率ゼロの東京などの住民は食料不足で、飢えかねないリスクが高まっているということだ。
酪農家は飼料、燃料などの価格高騰で赤字に苦しみ、さらに、追い討ちをかけるように、猛暑で、少なくとも1割、多いと3割、平均的には2割前後も乳量が減って、赤字が膨らんでいる。牛乳価格は小売セクターが価格形成の「起点」になっていて、なかなか酪農家の販売乳価が上がらず、乳価上昇は赤字解消にとても追いついていないところに、さらに赤字幅が拡大する事態になってきた。
北海道の牛乳生産は全国の6割近くを占め、都府県でも猛暑での減産が続いている。9月から学校給食が始まったら、全国的な牛乳不足が顕在化してくる可能性がある。しかも、牛乳は過剰だとの短絡的判断で、乳牛を全国で4万頭も処分するのを奨励する政策をやってしまった矢先だ。子牛が生まれて乳が搾れるようになるまでには、3年近くかかるので、増産は間に合わない。さらに、赤字で廃業する酪農家も増えてしまうと、年末にかけて、再び、バターが足りない、といった事態も起こりうる。
筆者もスタジオで解説したTBS「ひるおび」(8月29日)では、北海道のかぼちゃなどにも大きな被害が出て、大量の廃棄が発生していることも報道されたが、かぼちゃも北海道が全国40%強を生産しているので影響が大きい。しかし、他の農産物と同様、値段が上がっても、肥料や燃料などのコスト高で農家の所得は減っているので、どんどん増産が進められる状態ではない。
コメについても、猛暑で、北海道のみならず、主産地の新潟や東北各県でも、不作になる可能性が伝えられている。すでに、肥料や燃料などの高騰で所得がゼロ、つまり、自身の労働報酬がなく、ただ働き状態の稲作経営が大半を占めている。コメの取引価格は上がる見込みがあるが、一気に赤字が解消し、将来的に増産が進められる状況ではない。
農家の赤字が解消できるだけの取引価格の引き上げは可能か。フランスのエガリムⅡ法に倣って政府が価格転嫁を促すと提案されているけれども、実効性は疑問である。消費者も更なる値上げはこたえる。農家が生産を継続でき、消費者も適正な価格で買えるようにするには、民間だけの責任にせず、農家に必要な額と消費者が支払える額とのギャップを政策的に埋める仕組みが今こそ必要ではないか。
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