コメの市場があるメリットとは?その8【熊野孝文・米マーケット情報】2023年9月5日
5年産米の農協系統集荷概算金はほとんどの産地で値上げされ、値上げ幅の大きい銘柄は昨年産に比べ1俵2000円以上値上げされるものもある。そうした中にあって日本米のトップブランドともいうべき魚沼コシヒカリは300円値下げされている。提示された仮渡金は1万7200円で、他地区のコシヒカリに比べれば圧倒的に高いが、昨年よりも引き下げられたという事実は魚沼の生産者にとってはショックであったに違いない。魚沼のコシヒカリに限らず高級銘柄と言われる新之助やつや姫、ゆめぴりかなどは仮渡金や概算金が据え置きになったものや小幅な引き上げにとどまったものもある。
大きく変化する産地銘柄米の市場評価
こうした高級ブランド米の概算金設定が行われた背景には、市中で取引されるいわゆるブランド米の価格の位どころが下がりつつあることが上げられる。反対に中間クラスの銘柄やBランク米が値上がり、双方の価格差が大きく縮小している。全農が作成した資料によると昨年10月の市中相場では魚沼コシヒカリと栃木あさひの夢の価格差は1俵9100円というものであったが、今年7月の価格差は3700円まで縮小している。価格差縮小の大きな原因は業務用米の需要回復でBランク米がタイト化して価格の安いコメほど値上がり額が大きかったことによるが、それだけではなく高級ブランド米が大きく値下がりしていることも要因になっている。
高級ブランド米の値下がりの要因は、需要面の構造変化が大きい。第一には消費者の可処分所得が増えておらず、諸物価高騰で益々節約志向が強まっていることと、コメ大好き世代のリタイヤでこの層の購買力が低下していることが上げられる。もう一つ付け加えるならば若い世代では産地銘柄指向が強くないということもあげられる。産地銘柄の評価で大きな要素を占めるのが「食味」であったが、日本で生産されるコメの7割がコシヒカリ系のコメであり、その違いを食味で評価する方に無理がある。食味は個人差が大きくデータとして数値化できるものではない。食味を数値化する機械で計測しても同じ魚沼コシヒカリであっても最も食味が良いものと下のものでは90点から60点までと大きな開きがある。
ある国立大学の医学部難治疾患研究所では「超健康コンソーシアム」(農業から医療まで持続可能な社会の実現)の創立を掲げ、コメによるFoodAidProjectを推進している。この研究のプロジェクトの一環としてコメを摂取すると腸内の免疫細胞をどのように活性化させるかという研究がなされている。腸内には様々な免疫細胞があるが、コメの品種によって活性化される免疫細胞に違いがあることがわかって来た。免疫細胞の活性化の様子は動画でも見られるまでになっているほか、遺伝子発現解析の結果がデータで示せるまでになっている。この結果を見ると品種によって免疫系に対する機能が異なることがわかる。
このプロジェクトでは① 各地の銘柄米、世界中の米について免疫学的な機能評価をし、それぞれの機能を明らかにする ②それぞれのコメの機能を活用した健康増進への活用方法を確立する ③ それぞれの地域の銘柄米で、免疫機能を付加したコメを作出し、コメの付加価値を高める ④環境にも身体にもやさしい、持続可能(SDGs)な米作りをする-という4つの計画が立てられている。
コメの成分の違いによる付加価値戦略を進めているコメ卸の中には、肌に潤い効果のあるグルコシルセラミドを多く含む品種を発見、その品種をスチーム加工した加工玄米として商品化した。この商品は消費者庁より機能性表示食品として認可を得た。グルコシルセラミドはさまざまな農産物に含まれているが、100g中に1.8mg以上含まれていると潤い効果が認められるという科学的エビデンスがあり、同社では1年がかりでコメの品種の成分解析を行った結果、特に多く含まれている品種を見つけた。分析をした責任者は「コメの品種によってこれほどの違いがあるとは思わなかった」と驚いている。この商品はコメを原料とした初めての機能性表示食品であったことやウエルネスフードアワード2023アンチエイジング部門で金賞を受賞したこともあってか販売して間もないが大手量販店等500店舗で販売されるまでになっている。
ネット上にコメを売り買いする取引所があれば、売り手は自社が売りに出すコメに産地銘柄等級だけでなく、客観的な機能性成分もデータとしていくらでも情報が書き込め、それにより付加価値を訴求できる。それだけではなくネット上の取引市場にはこうしたコメの機能性情報が集積されることによってコメの当業者だけでなく一般にも広く伝わるようにして付加価値向上とともに需要を喚起することも可能になる。
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