コメ加工食品業界が原料米対策要請【熊野孝文・米マーケット情報】2023年11月14日
全国区銘柄である秋田あきたこまちは、新潟コシヒカリの品位低下もあってか卸業者が先行きの必要量を確保しようという動きが活発化。先渡し条件の取引では、1万6000円近くまで高騰している。コメ卸は価格が沈静化する材料はなく、まだ値上がりするのではないかと見ている。値上がり率だけ見ると、主食用に向けられる銘柄米よりはるかに大きいのが特定米穀、いわゆるくず米である。特定米穀を使用するコメ加工食品業界(米菓、味噌、米穀粉、清酒、焼酎業界等)は今月、原料米価格が安定するよう、農水省に対策を要請した。

特定米穀の価格変動要因として最も大きなウエイトを占めるのが「発生量」である。発生量をデータとして得るには農水省が公表するライスグレーダーの網目別粗玄米重を面積にかけて算出する方法がある。
それによると5年産米の発生量は、昨年産より9万トンほど少なく31万トンほどになったと推計されている。率にすると22%ほどの減少率で、出回り始めの価格もキロ90円台と昨年同期に比べ30円ほど高値でスタートしたが、その後も右肩上がりに値上がりしており、現在では無選別品ではキロ130円を超えるまでになっている。この価格で製品くず白米を販売するとなると米菓クラスでもキロ180円になってしまう。
こうした状況に最も早く反応したのが米菓業界で9月終わりには農水省を訪れて意見交換という形で原料米対策を要請した。
要請の内容は、①特定米穀を含めた原料米に供給不安があり、低廉な原料米の安定供給②MA米の適正な価格設定③絶対量不足時には備蓄米の放出の3点。
この時の農水省の説明は「特定米穀は生産するものではなく発生するもの。需要者側も安定仕入れのリスクになることは承知のはず」、「MA米も輸入価格との関係から相当な財政負担の下で財務省と協議して価格を設定」、「加工用途への備蓄米放出は法改正や主食用との公平性等から課題がある」などと言うものであった。
この時すでに米菓クラスのくず白米はキロ150円から160円になっており、米菓業界では入手困難と言っていたが、現状はさらに高騰している。
確かに特定米穀は生産されるものではなく発生するものだが、供給量は単位面積だけでの発生量だけではなく、トータルの面積でも左右される。いわゆる主食用米の作付面積が減少するとその分特定米穀の供給量も減少する。さらに制度によって用途を限定されるとその分目詰まりを起こし、価格変動が大きくなる。
せめてMA米の売却価格を値下げすれば良さそうなものだが、米菓業界が好むアメリカ産米の売価価格は12月までキロ161円である。財務省は餌用にMA米を売却するより、加工用に売却した方がはるかに財政負担が少なくて済むので、加工用向けの売却量が増えるのを歓迎するはずである。
しかもアメリカ産米の輸入価格はトン25万円もしていたものがカリフォルニアの干ばつが回復したことからトン17万円台に値下がりしたのだからその分負担額は軽減される。政府備蓄米も以前は破砕して加工原料米として売却していたのだから主食用との公平性という意味が分からない。
日本政策投資銀行がまとめたコメ産業の調査・報告書によると、2020年時点のコメ産業の市場規模は5兆円あると推計している。
この市場規模は農業・食料関連産業の総生産額47兆6000億円の約一割を占める。この中にコメ加工品の市場規模が出ている。それによると米菓・もちが4927億円、米穀粉が244億円、加工米飯が1968億円、日本酒・米焼酎・みりんが4652億円、コメ油が103億円で、トータルで1兆1893億円もある。
また、2001年から2020年までの生産量の推移は米菓が2.2%増、無菌包装米飯が254%増、冷凍米飯が3%増、包装もちが13.3%増となっており、清酒と米穀粉以外は生産量が増加している。
この報告書の中に加工事業者のコメ問題に対する意見が出ている。「米粉と小麦粉の価格差は縮小してきているものの、世界的に流通する小麦粉との価格差が逆転するとは考えにくい。生産コストの削減とともにコメ独自の価値を訴求していく必要がある」、「休耕田や耕作放棄地が増えており農業生産の基盤がとなる水田が減り続けている。主食用以外のコメの活用も進め、水田を維持することが必要」、「コメの生産が減っているなか、コメ油の原料になる米ぬかへの需要は高まっている。今後さらにコメの生産が減れば、米ぬかの調達は一層難しくなる」。
主要食糧の需給の安定及び価格の安定は、主食用だけに限って施行された法律ではなく、コメ加工品も入るはずである。しかもその分野の需要の伸びが見込まれるのであれば、コメ加工業界の意見も汲んでそうした視点に立った政策の転換が必要だ。
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