(365)伸びた時間で本質を見抜く【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年1月5日
令和6(2024)年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
さて、私事ですが昭和35(1960)年生まれの筆者は今年中に64歳になります。
国立社会保障・人口問題研究所のサイトを見ると、筆者が生まれた当時、日本人男性の平均寿命は男性65.32年、女性70.19年と記されている。当時は男性なら65歳、女性なら70歳あたりが、現在の80歳、90歳と同様な感覚で捉えられていたのであろう。子供時代に友達の家に遊びに行った際、小言を言われながらも可愛がって頂いた「おじいちゃん」たちが、実は今の自分の年齢と同じくらい、あるいは今の自分より若かったのかもしれないと思うと妙な気分になる。
さらに言えば、昭和22(1947)年当時の平均寿命は男性50.06年、女性53.96年である。これが令和3(2021)年になると男性81.47年、女性87.57年である。74年間で男性は31.41年、女性は33.61年、つまり一世代分伸びたわけだ。
この背景として、よく言われるのは乳児死亡率の低下である。昔の日本はさまざまな理由により小さい子供が命を落とした。そう思いわが国の乳児死亡率の推移を調べていたところ、興味深い論文に遭遇した。
西田(1996) によると、ほぼ100年前の1920年には171.6、1950年ですら58.7であった乳児死亡率は1991年には4.4に低下している。これは出生1,000人あたりの値である。
一般に、過去一世紀における乳児死亡率激減の原因は、多くの場合、医療の進歩が大きいと考えるかもしれない。それはそのとおりであろう。先に記した西田(1996)では、1920~85年間の死因構造を分析し、肺炎・気管支炎が約25%、乳児固有の疾患が約22%、胃腸炎・下痢が約18%、髄膜炎・脳炎が約10%とし、「これら4死因の死亡率低下で乳児死亡率低下の約75%が説明される」としている。
そして、医療の進歩としてよく知られたものとして、例えば「1930年代のサルファ剤(Sulfonamide)及び1940年代の抗生物質(Penicillin)の化学療法」などをあげ、前者は1937年、後者は1946年にわが国に導入されたとした上で、「化学療法が一般的に普及して使用され始めたのは1950年以降と推定される」と述べている。
詳細は原文を見て頂きたいが、西田論文のポイントはこれらが普及する前から、そしてこれらの薬の使用に関係ない疾病においても乳児死亡率は低下していた点に着目したことである。この視点は医学に限らず全ての分野に通じる重要なモノの見方である。
ある技術や仕組みが導入される前から、変化が生じていたとする。そして、その技術や仕組みの導入後も同方向での変化が継続した場合、結果として本当に寄与したのはどちらなのか、寄与の割合はどの程度なのかを誤解する可能性があるということだ。その例として、戦前における乳児死亡率の低下が挙げられている。
西田(1996)は最後に、「特定の医療技術の進歩ではなく、乳児を取り巻く環境が死亡を減少させるように何らかの変化をしていたことを意味しているのではないかと考えられる」とし、可能性として公衆衛生活動を指摘している。
さて、我々が以上から得られる教訓は何かと言えば、一見、「AならばB」が当然と考えていても、よく見直すと実は「CならばB」が本質という状況があるということだ。「AならばB」は非常にわかりやすく論理的だ。だが、実際は想定していないCが本当の原因となれば、目の前の現象には全く異なる因果関係が成立することになる。
そうなると、Bを改善するためにAに多大な資源を投入するよりは、Cに少しテコ入れするだけで実は大きな効果を生じさせることができる。平たく言えば、現在の我々に本当に必要なのは、目の前の「AならばB」という幻想に惑わされず、しっかりと「CならばB」を見抜いて対応することであろう。
* *
昭和35(1960)年当時の感覚ではもう筆者に残された時間はほとんどありません。今後のボーナス・タイムは目の前の現象に惑わされず本質に迫りたいものです。
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