(368)無人農場と「癒し」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年1月26日
DX(デジタル・トランスフォーメーション)が各所で唱えられています。そのDXを徹底的に追及した農業の姿とはどのようなものなのでしょうか。
DXとは、デジタル技術を活用し、日常の業務プロセスの改善だけでなく、ビジネスのやり方から企業文化まで、最終的には社会そのものの変革を目指すかなり幅の広い概念のようだ。デジタル技術には、いわゆるビッグデータだけでなく、それを処理するAIやIoTなどが含まれている。
対象が文化や社会にまで広がると話が拡大するため、農業に限定して考えてみたい。少し前まで、我々は何でも「スマート〇〇」と言っていた。今は「スマート農業」である。こちらはデジタル技術に限らないが、先端技術を活用し、作業を自動化したり、情報を共有化し意思決定を迅速化するなど、様々な形で活用されている。
米国などの動向を見ていると、ある時期までは「スマート農業」だったが、最近はデジタル農業(DA:Digital Agriculture)という表現を見るようになった。この概念はまだ生成途上のようで、今後、DXとともにどこまで発展していくかはわからない。
ただし、過去・現在、そして、途中を省いたかなり遠い将来の形は何となくわかるような気がする。一般に、将来とは、一人一人がどのような社会を望むかの集合的意識を集約した結果として形成されると考えられる。だが同時に、単なる現在の延長ではなく、一定の飛躍をして意図的に、あるいは偶然性により作られることもある。そこで、少しだけ簡単かつ現時点ではまだ非現実的な将来を妄想してみたい。
まず、人類の歴史を振り返れば、基本はアナログ技術に支えられた時間が圧倒的に長い。特定の場所や人などの長年の知見の集積によるこれらの技術は素晴らしい。だが、どうしても適用範囲や普及という面では限定的であった。
この延長線上に道具や機械などの改善と活用、農業で言えば特定の農機や肥料・農薬などを一定の経験則や分析結果に基づき活用して生産性を向上させることなどが含まれる。ただし、この段階ではデータの保存は記憶と記録、現実には後者は全て紙である。
次の段階は、記憶と紙に電子情報が混在する。現在はまさにこの段階である。作物の生産量や単収の記録は多くの農家が記憶と紙で実施していた時代から着実に電子媒体の活用にシフトしている。これは業種や仕事の種類による濃淡があるとはいえ、他産業でも同様である。とりあえず、その賛否や価値判断は脇に置いておく。
恐らく、もう少しこの程度が進むと、細かい情報は全て電子情報化される時代となる可能性がある。現在の日本で自分の田畑や果樹園などの土壌分析を、細分化した区分ごと定期的に実施している農家がどの程度存在するかはわからない。また、実際に衛星画像のデータなどを活用しても、数メートル単位での誤差は生じるようだ。これが、(費用は別として)最先端技術を活用すると誤差数センチの単位で状況が把握できるとの話もある。
自分の農地を数センチ単位の網目で分割し、その各々の土壌成分や水はけ状態が一目で把握可能な時代を想像してほしい。そうなれば異変を感じた際にはピンポイントで対応ができる...、という訳だ。行きつく先は恐らく完全無人化されAIと農業ロボットにより管理された農場...というマンガのような食料生産地になる。農家はこれを手元で管理する。
さて、言うまでもなく農業には様々な意味と価値がある。その中でも動植物や土と触れることで精神的に癒される効果は大きい。そうなると、将来の農業の姿は、一方の極に合理性を徹底的に追及し完全自動化された無人食料生産地としての農場があり、もう一方の極にはいわば人間に精神的な「癒し」を提供するような農場となるのかもしれない。
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恐らく多くの農場は、この両者の間で、経営体としての絶妙なバランスを取りながら今後しばらくの時間を過ごすのではないかというのが年明けの筆者の妄想です。
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